夢について考えている。
ホリエモン逮捕の知らせが日本を騒がせた日、ACTの若い仲間は寒さに震えながらにわか仕立てのペンキ職人になっていた。高松市の北村塗装店の棟梁たちがボランティアを引き受けて、新しくオープンするギャラリーの壁面をまっさらに塗り替えてくれた。新規事業委員会で頑張るA河淳也君、N原一成君、彼らに比べるとちょっとロートルだが、見た目は若いO野修一君は、6人のプロの手早い仕事ぶりに圧倒されながら、丸亀町ACTビルの1、2階を深夜まで駆けずり回っていた。
午前1時47分、N原君が「作業終了!」といくらか誇らし気なメールを送信して眠りについた頃、わずか10年でグループ会社の株式時価総額を1兆円にまで膨らませたIT投資時代の寵児・堀江貴文ライブドア前社長も東京拘置所で眠りについたことだろう。金にまみれた堀江前社長は33歳。ペンキにまみれたA河君は28歳。N原君は34歳。夢多き若者たち。
ホリエモンを「ホラエモン」と揶揄する流れにただ乗りするつもりはない。彼は東大を中退してまでITベンチャーに人生を賭け、22万人もの株主から資金を集めて自分の夢を膨らませた。22万人の夢も一緒に膨らんだ。今は容疑者だが、ほんの1カ月前までは日本の若者の夢の代表だった。いや、それにまとわりついた政治家も数多くいたから、分別盛りのおじさん、おばさんも一緒に夢を見たのだろう。
今の日本にもっとも欠けているのは夢ーと言われる時代だから、庶民の夢を沸き上がらせ、日本中に夢を配った彼を後付けで非難するのは見識のある人のすることではない。彼は人の心はカネで買える、と嘯いたそうだが、これも現代日本のありようから考えれば、彼一人の罪ではない。問題は日本中が注目した夢が、しょせんただの金もうけでしかなかったことだ。
その意味で彼は革命家でも何でもなかった。拝金主義と立身出世主義は明治以降、欧米列強の物質文明に追従した現代日本の最も一般的な常識だ。彼は近現代日本の一般的常識を備えた国民の一人でしかない。彼がその情熱と才能をこの国の形を根っこから変えるために使おうと本気で考えたなら、きっとどこかの冷え込む深夜のビルで壁塗りを手伝っていたことだろう。
2月15日から幕を開けるACTギャラリーの第1弾は藏本秀彦さんの「第二の接吻」原画展に決まった。たくさんの人々の夢が詰まった個展だ。菊池寛記念館に引き続いて開催を引き受けた藏本さん自身はもちろん、北村さんちの棟梁たちとその支援を取り付けたT田善昭さん、ギャラリーマダムを引き受けたK生みどりさん、広報宣伝に邁進するT智孝志さん、美しいチラシを制作したT山真知子さん。みんなみんなだれかの夢を膨らませるために駆け付けた。
ACTはどんな夢を配れるか。それが問題だ。
(ACT副理事長)
(明石安哲)