わが敬愛する田尾教授の今号コラムのテーマは、瀬戸内海は大ネタである、だそうだから、こちらも隠し玉の大ネタを出さねばならぬ。で、今回は「讃岐も大ネタである」。

讃岐と言えば、うどんしかないと嘆く向きが少なくない。しかし讃岐の真実を知れば、そんなことは言えなくなる。穏やかな気候、静かな海、丸くて小さな山々、お接待に代表される優しい人々、というのが讃岐の一般的イメージらしいが、真実の讃岐はそう生易しい土地柄ではない。讃岐には知られざる秘密がたくさんある。いや知られている事柄の奥底にも驚くべき秘密が眠っている。

そのすべてをここに書く訳には行かないが、不思議のいくつかを並べておく。
穏やかで優しい風土の讃岐がほんの数年前まで数十年にわたって交通死亡事故率の全国ワースト記録を更新し続けたのはなぜか? 優しい讃岐人の交通マナーが全国最悪と言われたのはなぜか? 

うどんが流行るのはケチまたは貧乏だからと言う人もいるが、その一方でピアノの普及率全国2位、ピアノを置く応接間の設置率全国1位、玄関や門構えにかける建築費も結婚披露にかける金額も全国トップレベルなのはなぜか?

戦後の讃岐出身ベストセラー作家は4人しかいない。大薮晴彦と西村寿行、西村望の兄弟、そして「バトルロワイヤル」の高見広春。そのいずれもが次々に人が死ぬハードボイルドや犯罪小説の作家で、親愛なる高見君にいたっては批判と賞賛相半ばするバイオレンス作家になってしまった。なぜ穏やかな風土から「殺人」文学が続々と生まれるのか?

忘れられている重大な疑問はまだまだある。香川は日本で一番小さな県だが、ではなぜ一番小さいのか? ついでに香川が「県」になったのは全国で一番遅い明治21年だが、それはなぜか? なぜ香川だけにセルフうどんが成立したのか? ついでにセルフのガソリンスタンド設置率までダントツの全国1位というのはなぜか?

空海、源内、外骨の讃岐三奇人を筆頭に、近現代でも東大総長南原茂、宰相大平正芳、文壇の大御所菊池寛ら各界で異彩を放つ人材が讃岐から続々と誕生したのはなぜか? 人は風土が育てる、とすれば、あなたの知っている穏やかな讃岐は本当の讃岐ではない。すべての謎を解くカギは、讃岐の歴史の奥深くに眠っている。田尾君、讃岐は大ネタだぜ。                                  (ACT副理事長)
(明石安哲)