今はまだモーソウの旅の途中 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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美術を、もっともっと身近なものに。もっともっと楽しいものに。もっともっと笑えるものに。

古今東西の名画を1点取り上げ、
それを徹底的に“モーソウ (=妄想)”する。

読売新聞の連載史上もっともくだらないコラム。

それが、『モーソウ美術館』。

読売新聞夕刊カルチャー面「Pop Style」に、毎月第2水曜日に掲載されています。

2020年の4月より連載がスタートし、

本日掲載されたコラムで、めでたく40回目を迎えることができました!

誰も褒めてくれないので、自分で自分を褒めたいと思います。

1年で終わると思っていましたが、なんとかここまでやってこられました。

毎月〆切り日が近づくたびに、ウンウン唸っていますが、

一応、今のところ、一回も原稿を落としたことはありません。

よくアイディアが出続けるものだと、我ながら、不思議でならないです。

なお、本日掲載の最新作は、レンブラントの《夜警》がテーマ。

時事ネタを交えたモーソウをしていますので、どうぞお楽しみに。

 

 

ということで、40回を突破した記念として。

これまでの回から、個人的にお気に入りの2本をご紹介したいと思います。

 

 

・雪舟《秋冬風景図》の巻(2022年1月)

 

 

 

《秋冬山水図》《天橋立図》など、数多くの傑作を残した水墨画家・雪舟。

彼の子ども時代のあの有名なエピソードを、もしあの論破王に伝えたら―

子どもの頃、雪舟はお坊さんになるためにとあるお寺に入りました。

しかし、雪舟は修業をせず、好きな絵を描いてばかり。

腹を立てた和尚さんは、ある朝、雪舟を本堂の柱に縛りつけました。


「それ何か意味があるんすか?

 柱に縛りつけると人は反省するって、なんかそういうデータあるんですか?」


夕方になって和尚さんが本堂に行くと、

雪舟の足元には一匹のネズミがいました。

しかも、雪舟の足の指を齧ろうとしているではないですか。

驚いた和尚さんは、必死に追い払いますが、ネズミはいっこうに逃げようとしません。

 

「えっと、ネズミって人が近づくと逃げるじゃないですか?

 それを追い払えないっていうことは、

 よっぽど仕事ができないか、相当頭が悪いかのどっちかなんですよ」


そのネズミは、なんと雪舟が自分の涙を使って足の指で描いたものだったのです。


「あのー、なんだろう、嘘つくのやめてもらっていいですか?

 ネズミと涙を見間違えるなんて有り得ないと思うんですけど。

 そもそも、涙って時間が経ったら乾きますよね?」


ネズミが動いたように見えたのは、

まるで本物のように生き生きと描かれていたからに他なりません。
 

「それって和尚さんの感想ですよね」
 

それ以後、和尚さんは雪舟に絵を描くことを許しました。


「でもこれって、もともと絵を描いてばかりだから怒ってたんですよね?

 絵が上手かったから絵を描くのを許すって矛盾していると思うんですけど?」

たぶんこんな感じになるのでしょう。

えーだから、彼に雪舟の話はしない方がいいと僕は思いまーす。

 

 

・デュシャン《泉》の巻(2022年12月)

 

 

 

アートって、よくわからない。

その元凶になったとも言える作品が、マルセル・デュシャンの《泉》です。

なぜ、便器がアートなのか?

当時の人々は、現代の僕らよりも反応に困ったことでしょう。


「うちのオカンがね、この前変わったアート観たらしいんやけど」

「そうなんや」

「あれがアートなのか、わからないらしくてね」

ほー、どうなってんねん」

「いろいろ聞くんやけどな。全然わからへんねん」

「ほんならアート好きの俺がね。

 オカンの観たそのアートを一緒に考えてあげるから、

 どんな特徴言うてたかとか教えてみてよ」

白くて磁器製でピカピカで朝顔型や言うてた」

「便器やないかい!その特徴はもう完全に男性用の小便器やがな。

 すぐわかったよ、こんなもん。“朝顔型”って表現するのは便器だけ。

 実際の朝顔に対してさえ、“朝顔型”なんて言わんのやから」

「いや、俺も便器やと思てんけどな。

 オカンが言うには年号と『R.Mutt』って署名が書かれてたらしい」

「ほな、便器と違うか!

 公衆トイレはよく落書きされてるけどな、

 不思議と便器には何も書かれないねん。

 年号と署名が描いてあるってことはアートやがなそれ。

 もうちょっと詳しく教えてくれる?」

「J・L・モット・アイアンワークス社が作ったものらしい」

「便器やないかい!その会社は日本で言うTOTOみたいなもんなんやから」

「いや、俺も便器やと思てんけどな。

 オカンが言うには台座に乗ってたらしい」

「ほな、便器と違うか!

 便器の上に何かが乗ることはあっても、

 便器が何かの上に乗ることなんてないんやから。アートやがな。

 もうちょっとなんか言ってなかったか?」

便器を横に倒した感じだったらしい」

「便器やないかい!便器と言ってる時点で便器やがな」

「んで、デュシャンが言うにはな」

「デュシャン?」

「アートなんやって」

「・・・・・・・。」

 

 

 

 

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