日本一短くも長くもない「父」への手紙 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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11月1日。父が永眠しました。

享年65歳。

 

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お父さんへ。

 

 バラエティ番組が好きではなかったですよね。

 子どもの頃、ダウンタウンやウッチャンナンチャンの番組を観てると、

 「こんなくだらないもん観てるんじゃない」 と、すぐナイター中継に変えていましたね。

 

 そのせいで、お笑い芸人になるという夢を、お父さんにはずっと切り出せず。

 吉本の養成所に入るため、東京に引っ越す際には、

 ほとんど挨拶らしい挨拶もせず、実家を出てしまいましたっけ。

 

 芸人時代は、一度も家に帰りませんでしたね。

 というか、帰れませんでした。

 それからしばらく経って、アートテラーに転向をしたことを母に伝えると、

 「うちに美術の本がたくさんあるから、観たいものがあったら家においで」  って、

 お父さんが言ってるよ、と、電話越しで伝えられました。

 あれがきっかけで、また実家に戻れるようになりましたね。

 もし、アートテラーになっていなかったら、

 お父さんとは疎遠のままだったのかもしれないです。

 

 とはいえ、アートテラーを全面的に応援してくれるのかと思いきや。

 テレビやラジオに出演したり、本を出したりしたことを伝えても、
 「ふーん。良かったな」 とか、「まぁ、身体に気をつけて頑張れよ」 とか、

 素っ気ない返事しかしてくれませんでしたよね。

 内心、“やっぱりアートテラーなんて、

 わけわからない仕事してるからだよなァ” と落ち込んでいました。

 普通に就職せず、親不孝な息子でごめんなさい。

 常にそう思っていましたよ。


 しかし、お父さんの死後、お父さんの友人や近所の人から、

 僕のことを自慢していてくれたということを教えてもらいました。

 気恥ずかしさも相当ありましたが、

 褒められたことがあまり無かったので、素直に嬉しかったです。

 あと、隠し通したかったでしょうが、お母さんから、

 僕が出演していたテレビやラジオを録画録音していてくれたことも教えてもらいました。

 

 

 

 僕が書いた本も、嬉しそうに読んでくれていたそうですね。

 それから、芸術新潮の “メトロポリタン美術館展特集” も、

 友人に自慢げに報告してくれていたことも教えてもらいました。

 最期に、間に合って良かったです。

 

 そういうこと、照れ臭くて僕には言わなかったんですね。
 でも、直接お父さんの口から聞きたかったです。
 ただ、僕もあなたの血を引いているので、

 面と向かっては照れ臭くて、38年間言えなかったことがあります。

 お父さんの息子で幸せでした。
 育ててくれてありがとう。
 

                                  アートテラー・とに~こと敦士より

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余談ですが、父の急死を母から電話で伝えられた直後の話を。

まったく予期していなかったため、さすがに動揺してしまいました。

そこで音楽で気を落ち着かせようと、Apple Musicで、

父が好きでよくレコードをかけていた吉田拓郎さんの曲を聴くことに。

「吉田拓郎」 と検索し、特に深く考えず、

トップソングの一番上の曲を再生しました。

すると、流れてきたのは・・・・・

 

 

 

『今日までそして明日から』 という曲でした。

 

 ♪私は今日まで生きてみました~ 

 

そのフレーズを聴いた瞬間に、

まさに父がそう言ってるような気がしてしまい、

自然と涙がボロボロとこぼれてきました。

 

 ♪時には誰かの 力を借りて  時には誰かに しがみついて~

 

こんな風にお父さんは生きてきたのか。

いつしか吉田拓郎の声が、お父さん自身の声に聴こえてきました。

 

 ♪私は今日まで生きてみました~ 

 

“うんうん。お父さんは、今日まで立派に生きたよ。そう思うよ”

気づけば、歌と会話している自分がいました。

 

 ♪そして今 私は思っています~

 

“え?何々?何を思ってるの??”

 

 ♪明日からも こうして生きていくだろうと~

 

・・・・・いや、死んだ自覚ないんかい!

地縛霊になっちゃうじゃん!!

 

 

ツッコミ芸人の性が出てしまい、

さっきまでの涙が引っ込んでしまいました。

お父さん、こんな息子でごめんなさい。

 

 

 

 

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