日本パステル畫事始め | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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今年で開館30年を迎える目黒区美術館。
それを記念して、現在、“日本パステル畫事始め” という展覧会が開催されています。

展覧会


こちらは、武内鶴之助 (1881~1948) と矢崎千代二 (1872~1947) という、
日本のパステル画の先駆者にして、国産パステル作りにも関わった2人にスポットを当てた展覧会。

「30周年にしては、何か地味・・・。」

そう思われ方も、大勢いらっしゃるでしょう。
しかし、目黒区美術館はこれまで積極的に、渡欧した画家を紹介してきた美術館。
くわえて、あえて画材に注目した展覧会も積極的に開催してきた美術館です。
そういう意味では、武内鶴之助と矢崎千代二は、まさに目黒区美術館にうってつけ。
目黒区美術館のために生まれたような画家と言っても過言ではないのです (←?)。


パステルの画家の展覧会と聞いて、
いわゆる “パステルカラー” のふわふわした絵が多い展覧会をイメージしていましたが。

武内鶴之助 《ロンドン郊外
武内鶴之助 《ロンドン郊外》 1908~12 パステル・紙 目黒区美術館蔵

矢崎千代二 《モンマルトル
矢崎千代二 《モンマルトル》 1921 パステル・紙 郡山市立美術館蔵


全くそんなことはありませんでした。

あれ?じゃあ、パステルって何??
知ってそうで意外とパステルのことを知らなかったことに気づかされました。
そんなパステルに関するあれこれが、
パステルの実物を交えながら、展覧会では詳しく紹介されています。

パステル
現在の『ゴンドラ』パステル


ちなみに、ごく簡単にパステルについて説明しますと、
パステルとは、顔料を主体とする素材を棒状に固めたもの。
他の画材と違って、ほぼ顔料そのものであるため、ダイレクトに美しい発色を放つのが特徴です。
また、乾燥時間はゼロ。
速写できるのも大きな特徴です。
それだけ聞くと、いいことづくめのような気もしますが、パステルには大きな弱点が。。。
それは、ベースとなる紙への定着力の弱さ。
粉状となったものが、なんとか紙の上に乗っているという感じなのです。
その儚さが魅力と言えば魅力なのですが、
展示するのも、ましてや動かすだけでもリスクが大きいとのこと。
そんな理由もあって、展覧会で紹介される機会が、あまり無いのだそうです。
というわけで、一部油彩画もありましたが、
パステル画だらけの今回の展覧会は、実に貴重なものと言えましょう。
星


さてさて、武内鶴之助と矢崎千代二。
どちらも初めて目にする画家でしたが、個人的には武内鶴之助の絵のほうが好みでした。
というのも、矢崎千代二は世界各地の風景を題材にしているのですが、
矢崎千代二本人の資質のせいなのか、それともパステルのせいなのか。
フランスを描いても、

矢崎千代二 《マルセーユ》
矢崎千代二 《マルセーユ》 1925 パステル・紙 目黒区美術館蔵


ブラジルを描いても、

矢崎千代二 《リオデジャネイロ風景
矢崎千代二 《リオデジャネイロ風景》 制作年不詳 パステル・紙 郡山市立美術館蔵


なんとなく同じような空気感になってしまっているのです。
フランスやブラジルの景色を描いたというよりも、
フランスやブラジルをイメージしたセットの風景を描いているかのような印象を受けました。
どの景色も暑くもなく、寒くもなく。
常にちょうどいい温度です。
そういう意味では、心地良くはありました。


一方、武内鶴之助の絵画は、暑かったり寒かったり雷鳴が轟いたり、
まるでスナップ写真のように、自然の一瞬の表情が切り取られていました。

武内鶴之助 《雷鳴
武内鶴之助 《雷鳴》 制作年不詳 パステル・紙 個人蔵


ちなみに、メインキャストは武内鶴之助と矢崎千代二ですが、
それ以外の画家のパステル画も、展覧会では紹介されていました。
その中には、パステル画界のビッグスター、ドガやルドンの作品も。

ドガ
エドガー・ドガ 《踊りの稽古場にて》 1884 パステル・紙 ポーラ美術館蔵


さすが30周年。
ちゃんと抑えるところは抑えています。




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