武士と印刷 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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現在、印刷博物館で開催されているのは、“武士と印刷” という展覧会。

武士


武士と印刷。
一生で一度耳にする機会があるかどうかの、実にキャッチーでインパクトのあるフレーズです。

展覧会は2部構成。
まず前半では、印刷された武士・・・すなわち、
武将や赤穂義士など、武士を描いた歌川国芳の浮世絵の数々が展示されています。

稲葉山中におゐて荒猪を生捕たる強勇を大将の目にとまり臣下とす
《稲葉山中におゐて荒猪を生捕たる強勇を大将の目にとまり臣下とす》


武田大膳大夫従五位下兼信濃守晴信入道信玄
《甲越勇将伝 武田家 武田大膳大夫従五位下兼信濃守晴信入道信玄》


誠忠義士肖像
《誠忠義士肖像 中村勘助正辰》


前半に関しては、普通に浮世絵展、普通に武者絵展、
普通に、良い摺りの状態の浮世絵が観られる、普通に、良い国芳展でした。
浮世絵好きの方は、要チェックです。
一つだけ付け加えるならば、
浮世絵をアクリル板に挟んで、壁に設置するという展示の仕方はナイスでした。
そのおかげで、超至近距離で浮世絵を楽しむことが出来ました。
ということは、「普通に」 ではなく、「かなり」 良い国芳展だったと言えそうです。


国芳の浮世絵で観客の心をグッと掴んでおいて、
後半で、いよいよ今回の展覧会の本題、核心へ。

水戸黄門こと徳川光圀が編纂した 『大日本史』 や、

大日本


豊前中津藩主・奥平昌高の命により編集された 『蘭語訳撰』 など、

蘭語訳撰』


戦国から幕末まで、約70人の武士が刷らせた約160点 (!) の印刷物が紹介されています。
印刷物がズラリと並べられた光景は、圧巻。
もはや一種のインスタレーション作品のようでした。
武士って結構、印刷物を出版していたのですね。

ただ、紹介されていた約70人のほとんどが平和な江戸時代を生きた武士。
冷静に考えてみると、それはまぁ、印刷もするでしょうなぁ、
他にこれと言ってすることもなさそうだし、という気がしてきました。
そう言う意味では、

「えっ、武士と印刷?!」

と素直に驚けたのは、徳川家康や今川義元、
豊臣秀頼といった戦国武将たちが手掛けた印刷物だけでした。
星


とは言え、江戸の武士が手掛けた印刷物の中には、
純粋に内容に驚かされたものがいくつかありました。
例えば、下総古河藩の第4代藩主にして、
江戸幕府の老中首座も務めた土井利位 (どいとしつら) の 『雪華図説』 。

雪華図説


「雪の殿様」 の異名を持つ土井利位が、
雪の結晶を観察し続けること約20年の集大成として制作した私家版の図鑑。
主に武家や公家への贈答用として用いられたのだとか。
ちなみに、この8年後に、『続雪華図説』 も刊行したのだそうな。

他にも、古銭集めが高じて、古銭に関する本を何冊も出版した福知山藩8代藩主・朽木昌綱や、
『日本書紀』 の研究に没頭し、その関連本を何冊も出版した黒羽藩11代藩主・大関増業など、
会場にはマニアな殿様がちらほら。
いつの時代にもマニアがいて、しかも、
いつの時代のマニアも、そのマニアックな知識を出版したくなるものなのですね。




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