若葉のころ 3 | アムール赤木 [It Happens Everyday]

若葉のころ 3

N君は母親とともにF本医院を訪ねた。
以前住んでたところの近くにあって、幼児のころからお世話になってる医院だ。
F本医師はとても熱心な先生として近所でも名医と呼ばれている。
家にいる限りは日曜日でも、夜遅くても「今すぐ来なさい」と言って診てくれる。

「おー。大きくなったなぁ。で、今日はただの風邪じゃなさそうだな」

N君は正月明けから咳がとまらなくなってた。市販の咳止め薬を飲んでたのだが、一向に効かない。
3日ほど前に今住んでるところの近くにある医院に行って診てもらったのだが、たいしたことはないと言われたという。
いくつかの薬をもらって飲んでみたのだがこれも効かなかった。

母親が続ける。
「今朝起きた時の顔を見ると、目の周りがものすごく腫れてるんです」

N君を触診したり、顔を覗きこんでたF本医師は「レントゲンを撮ろう」と言い、すぐに準備に入った。

しばらくして撮り終わったレントゲン写真を見てF本医師は叫んだ。


「おい!肺が真っ白じゃないか!」



すぐさまペンを取りだし、なにやら書き込んだ1枚の紙を母親に差し出した。


僕は運転免許試験場で合格発表を待っていた。 
岡山市街地から南へバスで30分ほど走ったところにある 、大きな湾を締めきった堤防の上の道路を渡ったところにそれはあった。

堤防の手前には、岡山港や中央市場があり、そのまわりに住宅街が広がる。
太平洋戦争末期、岡山の街も空襲を受け、家を失った人達が多く移り住んできたところだとも言われてるこのあたりは、「築港」と呼ばれている。


この街のはずれにある岡山R病院の正面玄関にN君が母親とともにタクシーで訪れたのは、僕が合格を目で確認した、そんな時刻だったろうか。
手にはF本医師からの紹介状が握られていた。