夕焼けの橋の下で
俺は嫌われ者だった。
皆がアルハルが出るとなると、恐がり来たくなるらしい。
立入禁止となった箱もある。
そんな毎日。
その日は、とあるライブハウスの企画だった。
全国各地から
極悪非道な限りを尽くした
カルトバンドが
集結する一夜。
私も
ゲストとして招かれ
演奏することとなった。
楽器以外に豚の頭部などを運ぶ輩もいる。
リハを終え、
顔合わせが18時からだという。
今は、16時。
俺は、時間まで
そのあたりをぶらつくことにした。
とりあえず
行きつけのラーメン屋に行く。
ここの醤油ラーメンが
私は大好きで、
おやっさんは、私のよき理解者だった。
例えるならば、仮面ライダーのカフェみたいなもんだ。
おやっさん一人で店を構え、俺以外客もおらず、小汚い店だが俺はここが不思議と落ち着く。
「へい。おまち、最近、元気にやってるんかいな?」
俺の目の前には、大盛り麺とチャーシューが8枚おまけに卵(もちろん半熟)まで。
普通のラーメンを注文したはずだが。
最近、歳でチャーシュー食えないんすよ。
食べ物を粗末にしちゃいかん。
と無理矢理食わされる(笑)
何気ない日常会話。
ほんじゃ戦場に行って来ますわ。
と出ていこうとすると。
「ぐぇあ、あいたたたたた」
と調理場から
アヒルのような声がこだまする。
「おやっさん?」
調理場を除くと。
しゃがみ込む店長の姿。
「おやっさん?どうした!!」
うぐぐぐと。
苦しむおやっさん。
「ギックリ腰じゃ」
最近こなかったのだが、歳やのうと。
そんなときに限って、客が大勢来たりする。
マジでか?
仕方ねぇ。
「おやっさん?エプロンはどこだ?」
そして
厨房に立つエプロン姿(何故かピンクで象さん刺繍入り)の私。
「いらっしゃいませ~何名様ですか~。
二名様ですね~。ご注文をどうぞ~。
麺の硬さは?トッピングはネギがオススメですよ」
と
黙々と調理場に立ちラーメンを作る私。
ふぃ。まいった。
しかも料理あんま得意じゃねぇんだよ。
すると
おやっさんが助けを呼んだしばらく持ちこたえてくれと。
数分後。
次々と客が入ってくる。
しかも部活帰りで、いかにも野球部的な学生(先生含む)団体様まで。
ピンチだ。
そして
店の扉は開かれた。
そこには
七人の
メイドが立っていた。
しかもフリフリ白黒の制服?で。
???
「パパ?大丈夫」
みたいな?
そして
ラーメン屋は、
冥土カフェと貸していた。
おやっさん?
あんた、ほんま何もの?
時間を見ると。
17時半。
やばい。
エプロンを脱ぎ捨て。
おやっさん、じゃあ、帰るで。
厨房の奥の畳み部屋で
横たわるおやっさんは
ただ何もいわず、
笑顔で
そしてしっかりと敬礼をした。
車を
飛ばす。
橋を渡ろうとすると
その橋の真ん中で
ママチャリが
車道のど真ん中を
走っている。
邪魔だ。
普段ならクラクション全開で鳴らすのだが。
で
追い越そうとした瞬間。
こっちに向かって
チャリが
倒れて来たのだ。
マジかよ?!
俺は
間一髪。避けた。
だが、車道に倒れ込む母親。しかも赤ん坊もいたようだ。布に包まれよくわからんが。
急停止し。
チャリに駆け寄る俺。
「奥さん、大丈夫ですか?」
すると
「アハハハ、大丈夫ですよ、だいじょぶ、、、です」
と
何処か焦点の合わない目で立ち上がる女。
赤ん坊は不思議と泣かない。
「救急車を呼びましょうか?」
「いえ、だいじょぶです。だいじょぶですから」
と女は
チャリを起こそうともせず橋の柵側へ。
「ちょ、あぶないですよ」
次の瞬間。
ドボン!!
女は、赤ん坊とともに
海に飛び込んだのだ。
マジかよ。
通行人の悲鳴が響く。
見下ろすと。
赤い血が海に広がっていた。
岩にぶつかったのだろう。
女は浮いて来なかった。
そこに
赤ん坊の姿らしきものがプカプカと浮いていた。
俺は橋を飛び降りた。
高さ三~四メートルはあっただろうが。
俺は無事、岩の岸に着地でき
赤ん坊をしっかりと拾いあげた。
それは、まだ未熟児もよいところ
図鑑とかでしかみたことがない。臍の緒が着いたままの赤子だった。泣き声はない。
だが、微妙にあたたかった。
そして
小さくだが
ドクン ドクンと
脈うっている。
「生きてる。この子まだいきとるで~~~」
橋の上を見上げると
通行人やらパトカーがこちらを見下ろしている。
「おい、警察何しとるんじゃぼけ!!はよ、病院へ救急車よばんかい、こら!!」
俺は叫びながら、瓦礫のへいをよじ登り
橋の上の警官へ手渡す。
その瞬間、
俺の足に激痛が走った。
気づかなかったが
どうやら足を痛めているらしい。
足を踏み外し、橋下の岩場へ落下。
頭を強く打ち、朦朧とする意識の中、救急車のサイレンが聞こえる。
間に合ったのか?
夕焼けで上手く見れなかったが皆。
橋の上で俺を見下ろすだけだった。
気がつくと
見慣れた俺のベットだった。
あれは夢だったのか?
夢って、現実とは違うかもしれないけど
確かにあった
もうひとつの世界は今も動いているのだ。
だって
おやっさんのラーメンの味や
あの子の体温を
俺はまだ覚えているのだから。