「あ、きたきた。二人とも遅いよ」 

テーブルを離れて、歩み寄ってきたのは西野七瀬だ。かりんの背中を押して、テーブルに着かせてくれる。

この家屋の大体の構図は、キッチン兼リビングのキッチン側の扉を開けると、玄関までの廊下となっている。その廊下のすぐとなりに二階へと続く階段があり、廊下を玄関のほうへ少し進むと、右側にバス・トイレ、反対側に小さめの寝室がある。
リビング側の扉を開けると、大きめの寝室が二つ。二階には子供部屋が二つあった。そして大きめのバルコニーが一つ。

「じゃあ、食べようか?」

深川麻衣が野菜スープをテーブルに運ぶと、椅子に座る。 

「これ、作ったんですか?」
 
かりんが珍しいものでも見るかのように、まじまじと料理を見る。そこに日芽香が遮るように割って入った。
 
「あたしも手伝ったんだよ」自慢するように笑顔を作る。 

「ひめたん、火加減見てただけじゃん」

畠中清羅が笑いながら茶化すと、日芽香がぶーと頬を膨らませて不機嫌な振りをした。 

「いいから早く食べよ。あー、お腹空いた」
「うん。さあ、食べよ」

樋口日奈がスパゲティを皿に盛り付け、テーブルに並べてから、椅子に座った。

「みんなも食べよ」深川麻衣の合図でいただきますをした。 

思いの外、食欲はあった。堅いパンと味気ない缶詰だけではどうしても食欲は沸かなかったのだろう。スープを啜る度に、栄養が身体中に染み渡っていくようでもあった。

そんな中、かりんが手を止める。

「あの……」

様子を伺うように目を泳がせた。他の五人の手も止まり、一斉にかりんに視線を向けた。

「どうした?」

七瀬がスプーンを皿の上に戻して、かりんに「?」を投げかけた。 

「さっきの銃声、やっぱり気になりません? 今までに比べて近くで聴こえたし、もしかしたら、もうこの近くに誰かが……」

銃声が鳴った時、ここにいる全員が不安の色を隠せずに、動揺した。今までとは違い、音は大きく、近くで誰かが死んだかもしれない、誰かが殺したかもしれない、という恐怖を身に纏っていた。

なのに、その事実を無かったことにするかのように、かりん以外の五人は、いつものように振る舞い始めた。それは、恐怖からの逃げでしかないのではないのかとかりんは思う。若しくは、メンバーの誰かが他の誰かを殺すだなんて事を、未だに信じていない現れなのか。

「このまま、ここにいると……」

言った後、清羅がわざとらしく、持っていたフォークを強めにテーブルに叩きつけた。

「今、ご飯食べてるから」
 
口調もやや強めに、そう放つ。

「すいません……」

申し訳なさそうに、かりんが目を伏せると、隣の日芽香が背中を優しく叩いてくれた。

「そういうのは考えないようにしよ。見張りをしてくれるのは嬉しいけど、そんなことされると、メンバーが人殺しだって疑ってるみたいじゃん」

日芽香の言葉に七瀬と日奈も頷く。かりんは、その異様な様子に違和感を持ちながら、再びスープに口を付けた。

集団催眠にでも掛かったかのように、全員が現実から目を背けようとしている。疑いたくない気持ちが先行し過ぎているだろう、深川もまた、かりんから目を逸らし、キャベツとベーコンのパスタを啜った。

「ごちそうさま。私、ちょっと部屋に居ます」

かりんの武器、サブマシンガンを手に取る。

その瞬間、玄関から激しい炸裂音が鳴り響いた。