青い空に白い雲。
満ちるのは光、とてもとても……穏やかで温かな温もり。
側では透き通った水が湧き出て、水路を満たす。そして向こうでは水の壁が光に反射し、美しい七色の光を沙友理に見せてくれる。
ふと、視線の先に白いワンピース姿の少女が現れる。大きな白い帽子を被り、小さなバックを持って……そしてその側には、他の少女の姿も……
そして、その少女達が振り返った。
いくつものつぶらな瞳が嬉しげに細められ……少女らは笑い、口を開き、
そして、
「さゆりん」
彼女ら口から出てきたのは、何かが混ざったような雑音だった。
「さゆりん」
彼女ら口から出てきたのは、何かが混ざったような雑音だった。
それでも沙友理を呼んでいるのだと、分かった。
嬉しげに手を差し出して、手を招いて……だけど、
(ああ、これは……)
これは、夢だ。
すぐそう思った……いや、気付いた。
嬉しげに笑う少女も、美しく懐かしいその景色も全て全て……
「夢、幻だ……」
そう呟いた瞬間、少女らの顔が曇り、泣きそうな顔になる。
それで分かった。
ああ、これはあの日の再現だ、と。
これらは全て終わってしまった過去でしかなく、……私は、
「私は、此処になんか居ない」
穏やかな場所など私には無い。
そうだ、無いのだ……こんな優しい場所など、私には無い。
(これはただの、美化された過去だ)
この景色もそう……
最後に見た時は、嫌悪感に満ちたような、呆れた空気がそこら中に……蔓延していたではないか。
そう思った瞬間、空気が重く変わる。
どこか残念がる心に蓋をして、溜息と共に思う。
(……仕方がない、ことだ)
自分の仕出かした事の重大さぐらいよく分かっている。
どこか残念がる心に蓋をして、溜息と共に思う。
(……仕方がない、ことだ)
自分の仕出かした事の重大さぐらいよく分かっている。
目を瞑り、次に開ければ……
頭に思い描いた通りに目の前の空間は穢れていく
赤く黒く、灰色に……
狂った、穢れた色に染まっていく……
「ーーで」「ーーの」
また何かの声が混ざった……それでいて怒り気味に。
(ああ、そうだったね……)
ーー私は、帰らなくちゃいけないーー
『私』を呼んでいたのはみんなじゃない。ならば、私は此処に居るべきではない。そう思い立ち、背を向けた……瞬間、
「私は、おまえをゆるさない」
誰かの声が、聞こえた。
そしてすぐ、睨まれているような視線を感じた。
(ああ、これは振り返らなくても、考えなくても思い出せるね……)
だから、
「そうだね、私を……許さないで」
笑みを浮かべ言い渡そう。
自らが美しく保っていた思い出に、美化し忘れ去っていた愚かな記憶に、
私を憎めと、言い渡そう。
そして忘れるなと、
私はみんなに憎まれているのだと。
今回の戦いで……全てをーー本音を、知ってしまったから…………
ーーさよなら、私の思い出……さよなら、大切な大切なーー
みんな……
衛藤美彩が死んでから二分とちょっと後、松村沙友理は、堀未央奈の手によって、殺された。
喉に突き立てられたナイフからは、大量の血が噴き出し、伸ばした腕は、何かを掴もうと何度も空を握り続けていた。
命を乞いたかったのか、愚かな行為に懺悔したかったのか、その両の瞳からは、涙が零れ落ちていた。
堀未央奈の笑い声は、もう届かない。
午前十一時を少しだけ過ぎた時、松村沙友理は突き立てられたナイフによって、息絶えた。