桜井玲香と若月佑美は、島の中伏に位置する倉庫の中に隠れていた。
学校から西側に位置する島唯一の倉庫には、使い古されたフォークリフトと、所々割れているパレットの山が積み上げられている。
垂れ下がった裸電球が点くのは、佑美が確認済みだったが、銃声を聴いた今、わざわざ居場所を教える必要もないと消している。

麻生地の布が入った段ボールのある窓からは、月明かりが射し込んでいた。薄暗い中で、二人は寄り添うように壁に背を向けて座っている。

最初の銃声からどれくらいの時間が経っただろうか、体感的には二時間は経っているように感じた。

沈黙の中、玲香がポツリと呟いた。

「私たち、助かるよね……?」

暗闇に、不安な声が宙を舞う。

「……うん。多分」

安心感を求めた回答は、曖昧な返事で濁された。
少しキツめの声色で、玲香はさらに問う。

「私のこと、助けてくれるよね?」

佑美の胸に小さな違和感が浮かんだ。

「……うん」

その返事に満足したのか、玲香は自身の背を壁に預けた。
風でカサカサと葉音が鳴る。首筋に通り抜ける冷たい風が、心地良い。

「もし、誰かに襲われたらさ、絶対守ってよ」

念を押すその言葉に、佑美の小さな違和感が、ふつふつと大きくなっていく。

「……」
「どうしたの? なんで黙ってんの?」
「……ないの?」
「え?」

玲香の声のトーンに対して、佑美の声色は先程から低く小さな物だ。聞き取れずに玲香が身体を、起こして覗き込んだ。

「なんで、私だけが守らなきゃいけないの?」

それは至極当然の疑問。二人に上下関係も無ければ、性別も同じなのだ。

「だって、わか……」
「私だって怖いのに? 私だって守ってもらいたいよ!? なのに、なんで私に求めるわけ!?」

突然の咆哮に玲香が身を竦めた。

「ごめ、だって、」
「うるさいっ!」

佑美の武器、アイスピックを持つ手が弧を描いた。振り払うだけのつもりが、無残にもその先端は玲香の右目に突き刺さる。

「ーーあ、ああああ!」

激痛に叫び声が轟く。玲香の右目玉は数ミリの穴を空け、月明かりに照らされた鮮血が、噴水のようにほとばしった。

蹲る、転がる、ギリギリと歯を鳴らす、再び声にならない声で叫ぶ。

右目が心臓のように、ドクンドクンと脈打つ度に痛みが駆け巡った。

「玲香が全部悪いんだよ」

非を認めなかったのは、芽生えた違和感がそうさせるのか、それともプライドがそうさせたのか。

蹲る玲香の左目が佑美に助けを請う。
こんな目にあっても、まだ助けがいるのか。どうして分かってくれないのか、佑美は小さく舌打ちをした。玲香の頭に足を乗せると、ぐりぐりと踏み躙る。

「さっき、言ったよね? どうして私が守らなきゃいけないの?」

うーうー唸る玲香の髪を掴んで、地面に叩きつけた。


違和感は、快感へと変わっていく。


「いた、いた……い……たす、け……」
「まだ分かってくれないんだ? 私だって女の子なんだよ?」

地面に転がっていたアイスピックを拾いあげると、振り上げた。玲香が反射的に顔を庇ったのを見て、佑美は何故か満足そうな顔をした。

「助けてあげようか?」
「……え?」

突然の救いの手、伸ばさない者などいない。

「だったらさ、土下座してお願いしなよ」

自分でも何故こんな事を言ってるのか不思議だった。だが、何故か口が滑らかに動く。気分は最高だった。


快感が、優越感に。


痛みを堪えて土下座した玲香に、投げ掛ける残酷な答え。

「でも、助けなーい」

佑美は玲香のバッグにあるマシンガンを手に取ると、標的に向かって銃弾を数十発放った。


優越感は、達成感に到達して、


「ごめんね玲香。私だってさ、女の子なんだよね」


完結した。