仲谷さんの噂を聞いたのは、その翌々日だった。
「遂に卒業しましたあ!」
すみれがそう言ったのが発端で、私達はまた放課後残って雑談会を開く事になる。
「うっそー! すみれ、おめでとう!」
「よくやったじゃん」
皆それぞれ祝福の言葉を述べる。私には何がおめでたいのかよくわからなかったが、今日は部活動がオフのため、一緒に帰る約束をしていた愛佳がその話題に食いついているので、雑談会に参加せざるを得なくなった。
「えへへ、思ってたよりも怖くなかった」
すみれは赤裸々に自身の初体験の内容を述べる。その話は、耳を塞ぎたくなるほどの話だった。梅雨が明け、いよいよ夏が到来した七月上旬の窓。以前雑談会を開いたときよりもすっきりとした天気の空は、快活な感じはするけれども、話の内容は相変わらず不純だ。
私はその話を傍聴しながらも、今日は仲谷さんが教室に居ないなあと思いながら辺りを見回した。そりゃ、こんな卑猥な話を近くでされちゃ、本も落ち着いて読めないだろう。……そういえば、昨日仲谷さんと話をした時、明日は図書室に本を返しに行くからそこで居るかもしれない、と言っていたっけ、と思い出して安心する。場所を奪われてしまったんじゃ、可哀想だし、私もこの雑談会の中に参加している事で、軽蔑されかねないし。
「これでこの中でも処女はあんただけになっちゃったよ、れいにゃん」
仲谷さんの心配をしているうちに、また話題は私に切り替えられる。愛佳のアイラインまみれの眼光が私を捕らえて悪戯に笑った。続いて美穂や晴香や、今まで処女だったすみれまでも私を催促する。早く彼氏作りなさいよ!
と囃し立てられては謙遜してを繰返しているうちに、
「そんなんじゃ、そのうちクラスで処女はあんたくらいになっちゃうよ」
と、愛佳が鋭い指摘を入れてきて、私は言葉に詰まった。すると晴香が、
「ないない。だってうちのクラスには仲谷が居るもん」
と、仲谷さんの名前を挙げて来たので、私は内臓を殴られたような苦しさを感じた。でも、自分でも仲谷さんは少なくとも高校生の間はずっと処女だろうと思う。あれだけ誰とも話さないのだから、やはり周りの皆にもそう思われているのだ。しかし、
「え、仲谷さんきっと処女じゃないよ」
と、すみれが言った。その言葉に、皆が目を剥いた。口を半開きにさせて、すみれの方を見つめている。私だって例外なく驚いて、きっと皆と同じような顔をしていた。
「何それ!? 誰情報!?」
それには皆がハイエナのような勢いで食らいついた。今まで冷静に話を傍聴していた私も、仲谷さんの事となれば本能的に目の色を変えて訊き漁ってしまう。興味というより、がけっぷちに立たされたような絶望、そして背筋を冷水が伝い落ちるような寒気を感じた。
「いや、私の情報なんだけど。この間の夜ね、街をぶらぶらしてたら、ホテル街に男の人と入っていく仲谷さんを見たの。多分あれは、仲谷さんだったと思うんだけど……眼鏡取ってたし、後姿で判断したから未確定だけどね」
すみれが誤魔化すように言った。だけど、皆その情報から様々な妄想を膨らませた。男とホテル街とか間違いなく彼氏じゃん! てことはもう処女じゃないだろうね。えーあんな地味な子が意外と……。私は絶望のあまり唇を震わせて、頭が真っ白になっていた。穢れを知らないような彼女の目は偽りで、本当は世間を知っている思春期の少女なんだろうか。
窓の外の雲一つ無い空。私のもやもやも、こんな風にすっきり晴らしてくれたらいいのに。
「遂に卒業しましたあ!」
すみれがそう言ったのが発端で、私達はまた放課後残って雑談会を開く事になる。
「うっそー! すみれ、おめでとう!」
「よくやったじゃん」
皆それぞれ祝福の言葉を述べる。私には何がおめでたいのかよくわからなかったが、今日は部活動がオフのため、一緒に帰る約束をしていた愛佳がその話題に食いついているので、雑談会に参加せざるを得なくなった。
「えへへ、思ってたよりも怖くなかった」
すみれは赤裸々に自身の初体験の内容を述べる。その話は、耳を塞ぎたくなるほどの話だった。梅雨が明け、いよいよ夏が到来した七月上旬の窓。以前雑談会を開いたときよりもすっきりとした天気の空は、快活な感じはするけれども、話の内容は相変わらず不純だ。
私はその話を傍聴しながらも、今日は仲谷さんが教室に居ないなあと思いながら辺りを見回した。そりゃ、こんな卑猥な話を近くでされちゃ、本も落ち着いて読めないだろう。……そういえば、昨日仲谷さんと話をした時、明日は図書室に本を返しに行くからそこで居るかもしれない、と言っていたっけ、と思い出して安心する。場所を奪われてしまったんじゃ、可哀想だし、私もこの雑談会の中に参加している事で、軽蔑されかねないし。
「これでこの中でも処女はあんただけになっちゃったよ、れいにゃん」
仲谷さんの心配をしているうちに、また話題は私に切り替えられる。愛佳のアイラインまみれの眼光が私を捕らえて悪戯に笑った。続いて美穂や晴香や、今まで処女だったすみれまでも私を催促する。早く彼氏作りなさいよ!
と囃し立てられては謙遜してを繰返しているうちに、
「そんなんじゃ、そのうちクラスで処女はあんたくらいになっちゃうよ」
と、愛佳が鋭い指摘を入れてきて、私は言葉に詰まった。すると晴香が、
「ないない。だってうちのクラスには仲谷が居るもん」
と、仲谷さんの名前を挙げて来たので、私は内臓を殴られたような苦しさを感じた。でも、自分でも仲谷さんは少なくとも高校生の間はずっと処女だろうと思う。あれだけ誰とも話さないのだから、やはり周りの皆にもそう思われているのだ。しかし、
「え、仲谷さんきっと処女じゃないよ」
と、すみれが言った。その言葉に、皆が目を剥いた。口を半開きにさせて、すみれの方を見つめている。私だって例外なく驚いて、きっと皆と同じような顔をしていた。
「何それ!? 誰情報!?」
それには皆がハイエナのような勢いで食らいついた。今まで冷静に話を傍聴していた私も、仲谷さんの事となれば本能的に目の色を変えて訊き漁ってしまう。興味というより、がけっぷちに立たされたような絶望、そして背筋を冷水が伝い落ちるような寒気を感じた。
「いや、私の情報なんだけど。この間の夜ね、街をぶらぶらしてたら、ホテル街に男の人と入っていく仲谷さんを見たの。多分あれは、仲谷さんだったと思うんだけど……眼鏡取ってたし、後姿で判断したから未確定だけどね」
すみれが誤魔化すように言った。だけど、皆その情報から様々な妄想を膨らませた。男とホテル街とか間違いなく彼氏じゃん! てことはもう処女じゃないだろうね。えーあんな地味な子が意外と……。私は絶望のあまり唇を震わせて、頭が真っ白になっていた。穢れを知らないような彼女の目は偽りで、本当は世間を知っている思春期の少女なんだろうか。
窓の外の雲一つ無い空。私のもやもやも、こんな風にすっきり晴らしてくれたらいいのに。