次の日学校へ行くと、美穂と彩の苦い笑みに迎え入れられた。私もその笑みには、苦笑いで対応した。少しだけ、三人の絆が強くなった気がした。謙遜しているけれども、その笑みに嘘偽りはなかった。下手なお世辞を言われるよりも、幾分か気分が軽かった。

部活へ行く際、私は彼に赤いキャップ帽を被せて、強引に手を引っ張って部室まで連れて行った。まだまだ彼は不安が多いらしく、少し躊躇いがちについて来た。ドアを開くと、そこには香菜が明るい笑顔と共に立っていた。

「二人のこと、待ってたんだよ。由紀が、話があるって」
「由紀が?」

すると由紀は、彼のドラムの影からひょっこりと顔を覗かせた。その瞬間私たちは呆気にとられた。由紀の長い黒髪が私と変わらないくらいの短さになっていたのだ。

「えっと、雰囲気潰してごめんなさい。怒鳴ったりしてごめん。あと、昨日の結果も、ごめん」
「ゆ、ゆ、由紀……」

私が言葉に詰まっていると、おもむろに彼は帽子を脱ぎ捨てた。すると今度は、向こうの二人が口をあんぐりと開けて彼の頭をじっと見つめている。

「えっと、雰囲気潰してごめんなさい。由紀、文句言って、それに殴ってごめん。香菜も怪我させて悪かった。あと、昨日の結果も、ごめん」

驚愕の後に訪れたのは、みんなのげらげらとした笑い声であった。やっぱり、いつものメンバーがここにいる。……それは少し違う。いつも以上のメンバーがここにいるのだ。結束力の高まった、私の大好きなメンバーが。

雰囲気が和やかになったところで、私が昨日読んだ雑誌の記事を見せると、メンバー全員が更に驚いた様子の表情を浮かべた。

――バンドで全国デビューをしよう。という、私の大好きなバンドが所属する事務所のオーディションの記事だった。そこは非常にレヴェルが高い上、オーディションを受ける人数が毎回半端ではないらしい。そこに私たちみたいな下手くそなグループが立ち向かおうと言うのだから、それまた困った話だ。

「無理でしょ。だって私、まだチューニングもできないんだよ」

由紀が苦笑いしながら言った。彼も大きく頷いている。

「……無理かな?」

そんな中、賛同してくれたのはやっぱり香菜だった。

「受けなかったら勝率は0パーセント。だけど、受けたら1パーセントでも勝機があるんだよ。勿体ないじゃん。1パーセントを見す見す見逃すの?」

そう言うと、彼と由紀はお互いの顔を見つめ合った。私と香菜は満足げに歌を歌った。



オーディションの結果は言うまでもない。

相変わらずのベースとギターと歌唱力に、審査員の溜息で会場が満たされた。歌った曲は、拙い歌詞と曲でできた、本当の私たちのデビュー曲だ。

「酷い曲だ」
「酷い声だ」
「酷い演奏だ」

審査員の評価は最低中の最低で、結局曲を最後まで聴いてもらえなかったけれど、私たちはそれでも十分に楽しかった。精一杯演奏した。最低じゃなく、最高の演技だと自画自賛するほどだ。ただ、目の付けどころの違う審査員は、やっぱり彼の実力を見抜いて、彼だけをスカウトした。技術のある人間だけを抜粋して、新たなバンドを作るという企画もあるらしい。しかし、彼はきっぱりとこう言った。

「俺はこのメンバー以外、誰ともデビューする気はありません」

夕陽がビルの陰に沈み、東の空がもう深い夜に侵食されつつある。太陽と降板した月は徐々に位置を高くしながら、私たちを優しく見守った。東京の夜は暖かい。歩き行く人々が、私たちには目もくれず過ぎ去っていく。街のネオンにも負けない、力強い星の光が、ビルの隙間から堂々と輝いている。

「すっごい星ー」

香菜が感嘆した。みんな思わず足を止めて空を眺める。後ろの人に怪訝な顔をされようと、私たちは一向に気にしなかった。

「本当だ」

私がそう言うと、同じヘアスタイルの後頭部が、上下に揺れた。

「これからもこの四人でいっぱい歌を歌えますように」

香菜が空に向かって、大きな声で叫んだ。私たちはあはあはと笑った。

「香菜、願い事は流れ星に頼むんだよ」
「いいの、この星の方が、どの星にも負けない気がするから」

香菜が笑いながら言った。額にはもう、傷は見えない。







~The method of union~ fin.