佐伯美香と奥真奈美という、タイプの違う二人の殺人鬼により、未だにこのゲームに参加出来ないでいるメンバーに、確実に恐怖を与え続けていた。
そんな中、誰もが予想していたにも関わらず、忘れ去られていた殺人鬼が、遅れを取り戻すように動き出していた。



「だから、どうしても、誰かを探さなきゃいけないと思ったんだ」
高橋みなみはそう言い、小嶋陽菜の顔を、ちらっと見た。朝焼けに照らされたその顔は、みなみの顔をちらりとも見ずに、バッグの中から取り出した水を、ぐいっと一口飲んだ。右手には、陽菜の武器であろう、大きな鉈をしっかりと持っている。
高橋みなみに取って、陽菜に出会えたことはとても幸運だった。
一人でいるよりかは、精神的にも楽になれるからだ。それが、よく知る相手なら特にだ。
だからだろう、みなみは陽菜と出会ってからは、嘘のように饒舌になっていた。陽菜が黙れば黙る程、それに反するように口が動く。今もまた、みなみの考える今後について、一人で饒舌に喋っていた。
「ね。これ以上、メンバーの誰かが死ぬのは堪えられないじゃん」そう思わない? 疑問符を投げ掛けてからみなみが見上げるように、一瞬だけ首を傾げた。
陽菜の黒目が僅かに動いてから、頭が風に吹き付けられた振り子のように、微かに揺れた。
「思わない」強めの語調だった。「死んだ子は、それまでだったてことだし、これから死ぬ子も同じ」
生存競争に負けた人間の事等考えたくもないし、負けるのが怖くて怯えてる人間の事を考えるのもごめんだ。そう言い放つと、再び陽菜は黙った。
シュン、と頭を垂れたみなみが睫毛を震わせる。
こうしたやり取りが、昨晩から何度か続いた。
そのほとんどが、陽菜は何も応えずに黙る事で終わっていたのだが。

正義感を訴えるみなみと、この島でのルールを尊重する陽菜とでは、考え方自体が水と油のようだ。

「誰かを探すことは賛成するよ」ポツリと陽菜が言葉を吐き出す。みなみの顔に明かりが射した。「けど……」
一拍間を置いてから、首だけでみなみを見る。
「それは、殺すためにだからね」
この島に来てから初めて見る陽菜の笑顔は、いつもとなんら変わらない普通の笑みだった。他愛のない話のときに見せる、楽しそうな微笑み。
だからこそ、みなみはそれとは似合わない台詞に、耳を疑った。
「えっ、な……。そんな冗談……やめてよ」
思わず声を出して笑った。全てが嘘のようにさえ思えてきた。もう一度陽菜が笑う。
右手が天に向かって伸びていた。陽菜の笑顔がいつの間にか消えていて、代わりに、寂しそうな表情を見せた。
心臓の位置が耳元に移動したんじゃないかと思うくらい、はっきりと何度も大きく鳴った。
右手を掲げた陽菜の唇が、半円を描く。朝陽に照らされて、頬に伝う何かがキラリと光った気がした。
「たかみな……。あんたを殺せば、あたし、何か変われる気がするんだ」
みなみが言葉を発するよりも先に、陽菜の右手が重力に抗うのを止め、綺麗な弧を描いてから振り下ろされた。
西瓜の玉が潰れたような音が耳をつく。鮮血が陽菜の顔や体に飛び散り、倒れたみなみの体を受け止めた。
頭に深く突き刺さった鉈を引き抜くよりも先に、開いたままの瞼をそっと手で閉じさせた。



高橋みなみ、死亡。

残り生存者数、17人。