しばらくは時間の流れを穏やかに感じた。横たわった莉乃の傍らには、晴香が木にもたれ掛って空を見上げ、佐江は拾ってきた長めの木の枝を、診療所から持ち出したナイフで何やら加工している。
目を覚ました小鳥が囀り、風が髪の毛を揺らした。陽の光が、少しだけ眩しく三人を照らすと、遠くから小さく銃声が鳴った。
パンッパンッ、と二発。
莉乃の目玉がその所在を探すように動いた。晴香の視線が空から佐江に移動し、その佐江も一瞬だけ動きを止めて、眉を顰めた。そしてすぐに元の動作に戻ると、何事もなかったかのように振る舞った。
誰かがまた、誰かの命を奪ったようだ。
もしかすると萌乃のような――事態が起きているかもしれない。そうでないにせよ、メンバーの中にそういう人がいるのは確かだ。
そのせいで、今も恐怖に脅えている子達がいて、そして今正に誰かが死んだかもしれない。
そう考えると、晴香は胸が締め付けられ、煩悶した。
佐江は、仕方がないことだ、と言った。生きるためなら、邪魔者は消さなければいけない、それがこの島のルールなんだ、と。
やはり、佐江の考えは変わらないのだろうか。全員を殺して、自分だけが生き残り、優勝する。
確かに、それだけが唯一の助かる方法だと秋元先生は言った。けれど、あの時、萌乃が自殺しようとした時、晴香は佐江が発した言葉を聞き逃さなかった。
――あの時、佐江は、「止めろ」と言いかけたのだ。
それは、一番近くに居た晴香の耳に、はっきりと届いた。
自分だけが助かるために、殺し合いを肯定している佐江だが、心境は少しずつ変化しているのではないかと、晴香は信じていたかった。
田名部生来は、島の南東の岩場を恐る恐る進んだ。鳴り響く銃声や爆発音に脅え、夜の闇に吹く風の音さえも恐怖を抱いていた。
朝の光を待っていたかのように、生来が動き出す。辺りを窺いながら慎重に歩いた。白い岩の上、生来が手を付き顔を覗かせた場所に、梅田あやかの死体が横たわっていた。
「ひっ」
悲鳴が洩れた。赤黒い血が顔から体へと流れている。灰色に染まった肌が、死後十数時間以上経過していることを教えてくれた。
怖くなって顔を引っ込めると、岩場の下に誰かが居た。いつの間に居たのだろうか、長い髪で顔を隠すようにして、地面に体育座りをしている。
再び、生来は悲鳴を漏らしてしまった。
「だ、だれ……?」
口の中がねっとりとした唾液で纏わり付く。唾が上手く飲み込めない。
「……うっ、ううう……」
生来の問い掛けには応えず、代わりに嗚咽のような声を上げた。蹲った膝の中にある顔は髪のせいでよく見えない。
だが、生来にはそれが誰なのか、なんとなく判った気がした。
「ど、どど、どうして、な、泣いて……るの?」
覗き込むように少女の髪を左手で掻き分けた。ようやく見えた大きな瞳がこちらを睨みつけていて、生来は思わず退いてしまった。
泣いてなどいなかった。
上げた顔は、唇の両端が持ち上がり冷たい瞳をこちらに向けていた。
「えっ? ……え、ええ!?」
それは、AKB48最年少メンバーの奥真奈美だった。
人形のような白い肌に、生気のない瞳。薄い桃色の唇から覗く白い歯が、細く小さな声を奏でた。
それは、とてもとても小さく、生来は思わず聞き逃すところだった。いや、聞き逃したほうが幸せだったかもしれない。
「……死ね」
真奈美の右手の先に、黒い鉄の塊が現れた。
コルトガバメントの銃口からは、僅かに火薬の臭いが漂っているようにも思えた。
「あ、あ、ええ……え? や、やめ……」
恐怖に口を開いた生来の耳に、ぱん、という音が響いた。
右目を思い切り殴られたような衝撃を感じた。続けてもう一度ぱん、と鳴ると、生来の思考は停止した。
奥真奈美は、生来が死んだのを確認すると、何事もなかったかのように、デイバッグを抱えて次の獲物を捜し歩きはじめた。
目を覚ました小鳥が囀り、風が髪の毛を揺らした。陽の光が、少しだけ眩しく三人を照らすと、遠くから小さく銃声が鳴った。
パンッパンッ、と二発。
莉乃の目玉がその所在を探すように動いた。晴香の視線が空から佐江に移動し、その佐江も一瞬だけ動きを止めて、眉を顰めた。そしてすぐに元の動作に戻ると、何事もなかったかのように振る舞った。
誰かがまた、誰かの命を奪ったようだ。
もしかすると萌乃のような――事態が起きているかもしれない。そうでないにせよ、メンバーの中にそういう人がいるのは確かだ。
そのせいで、今も恐怖に脅えている子達がいて、そして今正に誰かが死んだかもしれない。
そう考えると、晴香は胸が締め付けられ、煩悶した。
佐江は、仕方がないことだ、と言った。生きるためなら、邪魔者は消さなければいけない、それがこの島のルールなんだ、と。
やはり、佐江の考えは変わらないのだろうか。全員を殺して、自分だけが生き残り、優勝する。
確かに、それだけが唯一の助かる方法だと秋元先生は言った。けれど、あの時、萌乃が自殺しようとした時、晴香は佐江が発した言葉を聞き逃さなかった。
――あの時、佐江は、「止めろ」と言いかけたのだ。
それは、一番近くに居た晴香の耳に、はっきりと届いた。
自分だけが助かるために、殺し合いを肯定している佐江だが、心境は少しずつ変化しているのではないかと、晴香は信じていたかった。
田名部生来は、島の南東の岩場を恐る恐る進んだ。鳴り響く銃声や爆発音に脅え、夜の闇に吹く風の音さえも恐怖を抱いていた。
朝の光を待っていたかのように、生来が動き出す。辺りを窺いながら慎重に歩いた。白い岩の上、生来が手を付き顔を覗かせた場所に、梅田あやかの死体が横たわっていた。
「ひっ」
悲鳴が洩れた。赤黒い血が顔から体へと流れている。灰色に染まった肌が、死後十数時間以上経過していることを教えてくれた。
怖くなって顔を引っ込めると、岩場の下に誰かが居た。いつの間に居たのだろうか、長い髪で顔を隠すようにして、地面に体育座りをしている。
再び、生来は悲鳴を漏らしてしまった。
「だ、だれ……?」
口の中がねっとりとした唾液で纏わり付く。唾が上手く飲み込めない。
「……うっ、ううう……」
生来の問い掛けには応えず、代わりに嗚咽のような声を上げた。蹲った膝の中にある顔は髪のせいでよく見えない。
だが、生来にはそれが誰なのか、なんとなく判った気がした。
「ど、どど、どうして、な、泣いて……るの?」
覗き込むように少女の髪を左手で掻き分けた。ようやく見えた大きな瞳がこちらを睨みつけていて、生来は思わず退いてしまった。
泣いてなどいなかった。
上げた顔は、唇の両端が持ち上がり冷たい瞳をこちらに向けていた。
「えっ? ……え、ええ!?」
それは、AKB48最年少メンバーの奥真奈美だった。
人形のような白い肌に、生気のない瞳。薄い桃色の唇から覗く白い歯が、細く小さな声を奏でた。
それは、とてもとても小さく、生来は思わず聞き逃すところだった。いや、聞き逃したほうが幸せだったかもしれない。
「……死ね」
真奈美の右手の先に、黒い鉄の塊が現れた。
コルトガバメントの銃口からは、僅かに火薬の臭いが漂っているようにも思えた。
「あ、あ、ええ……え? や、やめ……」
恐怖に口を開いた生来の耳に、ぱん、という音が響いた。
右目を思い切り殴られたような衝撃を感じた。続けてもう一度ぱん、と鳴ると、生来の思考は停止した。
奥真奈美は、生来が死んだのを確認すると、何事もなかったかのように、デイバッグを抱えて次の獲物を捜し歩きはじめた。