暗闇の中に放たれた光線のような懐中電灯の光に、友美は一瞬だけ目眩がした。
頭の中でパチパチと光の粒が弾けて消えた。掴まれた脚に小さな痛みを感じたのが合図になった。
「逃げよう」咄嗟に愛佳の手を取った。「早く」
照らされた懐中電灯から、逃れるように走り去る。萌乃の手がそれを追うように伸ばされてから、力失く地面に落ちた。
「もえのちゃん!」
一度友美を追いかけた懐中電灯の明かりだったが、それはすぐに追うのを辞めて、地面に倒れている二人の姿を映した。
どうして逃げるのか。声には出さずに何度も問う。力失く落とされた腕は、その先にある指をピクリと動かす。黒く湿った土を手のひらで包み込み、そしてさらさらと流した。
「もえのちゃん」再び聴こえた声に、横になったままの体勢で顔だけを動かす。
萌乃のすぐ隣に、膝を着いた莉乃が心配そうに覗き込んでいた。
たれ下げた眉毛が、前髪の先端で見え隠れしている。服や頭には無数の枯葉がくっついていた。そして、萌乃の背中に腕を伸ばし、そっと触れた。
もう一つの腕の先端には――拳銃。
「だいじょう――」
背中に触れていた手をゆっくりと動かした。途端、萌乃が怯えたような顔をして起き上がった。
幽霊でも見たかのように後ずさる。手に持った拳銃の銃口を突き出す。
「もえのちゃん……?」
ここで初めて莉乃が、萌乃のおかしな様子に気づいた。莉乃を見ている目はすっかりと怯えきっている。
「こ、来ないでっ!!」
銃を持ってない方の手を莉乃が差し出したのを、萌乃は銃を突きつけられたと勘違いした。
萌乃の拳銃がスローモーションのように火を噴く。発砲音が鼓膜を震わせたあと、銃弾は莉乃の腹に穴を空けた。
体をくの字に折り曲げながら、莉乃がもう一度手を差し伸ばした。表情は苦痛に歪められている。二発目の銃弾がその腕を跳ね上げた。
萌乃の視界にある拳銃の向こう側、莉乃が口をパクパクと動かしながらうつ伏せに倒れた。
「何もしない……から」必死に顔を上げて続ける「だから、撃たないで」
握っていた拳銃は既に離していた。うつ伏せのまま、ほふく前進するように萌乃に近づこうとする。
「さっしー?」
「ここから離れて」顔を上げて必死に腕を伸ばした。萌乃のシャツの裾をゆっくりと掴んだ。「銃声のある場所は危険だから――だから、逃げて」
必死に伸ばされた腕を、萌乃が取った。腹部から流れた血のせいで赤く染まったその手は、萌乃の手までも赤く染めた。
「ご、ごめんね――私――どうしよう……」
莉乃の意思とは裏腹に、萌乃は動こうとはしなかった。我に返った思考は、この状況を打破する術を思いつかない。
辺りに人の気配はなかったが、銃声を聞きつけた何者かが少しずつ忍び寄っていることだけは確かだった。