遥香に連れてこられたのは、佐江と別れた食堂から少しだけ離れた大通り沿いにある大きな広場だった。

正面に大きな時計台があり、その真下に位置するあたりの中央に噴水があった。

周りには、なるほど、小さな簡易店舗がちらほらとあった。


「あれ、おかしいなぁ? いつもならあの辺でかき氷売ってるんだけど……」


指差した場所は、赤いテント屋根が特徴のお花屋さんの手前側だった。

首を傾げながら「今日はもう店じまいしたのかな?」と眉間に皺を寄せていた。


「本当にここなの?」

「ここだよここ。いっつもあそこで楽しそうにかき氷売ってるんだから。まあ、いっつもって言っても、数日前からだけど」


遥香が嘘を吐いているようには見えなかった。かき氷のことも知っていたわけだし、恐らくいつもここでかき氷を売っているのは本当なのだろう。


「住んでる場所とかは判らないの?」

「そこまでは知らないよ。ここを通りかかるときに見かけるだけだもん」

「そっか。じゃあ、明日またここに来たらいるかもね」


平和すぎるこの光景を見ていると、冒険のことを忘れていられそうになる。噴きあがる噴水の音と、子供たちのはしゃぎ声。この中で、智実がかき氷を売っている姿を想像して、萌乃は口元に笑みをつくった。余りにも似合いすぎる光景に。


「じゃあ、はるかはここまででってことで」

「何言ってるの? 私たちが無事に仲間に出会えるまでは絶対逃がさないからね」

「えー、そんなぁ」

「財布盗んだこと、まだ許してないんだから」


がっくりとうな垂れた遥香を見下ろしながら、莉乃は少しだけ同情した。











「ということは、ここは別世界ってことでよろしいでござるか?」

「よく判んないけど、きたりえが言ってるような世界はこの世界にはないと思うよ」


あまりにもお互いがとんちかんな事を言い合うものだからか、一旦整理してみた。その結果、里英のいう元の世界の情報は麻衣と才加には通じず、ここが全く別の世界だと認識することができた。

この世界での麻衣も元の世界での麻衣も余り性格は変わらないようではあったが、幾らかこっちの世界の麻衣のほうが常識が通じるように思える。

それは才加にも言える事だったが。


「やはり、さっしー殿を早く見つけ出さなければ」

「待って。そのさっしーって子がどこにいるのか知ってるの? 初めてくる世界を、むやみやたらと歩き回ってても、モンスターに襲われて死んじゃうよ」

「もん、なんでござるか?」

「モンスターだよ。ここら辺はウェアウルフも出るって噂だし、お前のレベルじゃ見つかった瞬間に食い殺されるのがオチだな」


イマイチ話が通じていないようだったが、里英なりの見解で「妖怪のことでござるか?」と強引に納得していた。

妖怪の類のモンスターも射たりするので、あながち間違いではない。


「とりあえず、まいたちと一緒に冒険しよう。その内、さっしーって子にも出会えるはずだから」

「やはりそれしか方法はないようでござるな」

「じゃあ、早速だけど、装備整えようぜ。そんな格好で武器も持たずに冒険なんて出来ないしな」


汚れた袴姿に、折れた刀を持った里英は、こちら側の世界の住人からすれば、異様な格好に見えているようだ。

まあ、元の世界に戻っても変わりはないのだが。











「薬草も沢山採ったし、凍っちゃったけどお花さんもあるし、ばーちゃん喜んでくれるかなぁ?」


元来た道を迷うことなく走る智実のリュックには、その辺に生えていた雑草と、先ほど倒して氷付けした一匹の花が顔を出したままだった。


街の入り口を難なく通過して、いつもの大通りを駆け抜ける。噴水のある広場の前を通りかかったとき、小さな子供から手を振られて笑顔で応えていた。常連客には既に人気者のようだ。

そのままお婆さんの経営する魔法屋まで走り抜けようとしたとき、智実の体がふわりと宙に浮いた。

そのまま路地裏に引っ張られる。


「これだな? 最近、この街に現れたっていう変な女は」

「だろうな。青い変な服着て黄色のリュックを背負ってるやつなんて、そうそう居ないぜ」

「かき氷食べる? 下ろしてくれたら作るよ」


大男の肩に担がれてるにも関わらず智実はマイペースにそんなことを口にしていた。もう一方の痩せ型の男が苦笑いをしながら、智実の被っているフードを取る。


「ほー、こりゃ中々の上玉だ。そっち方面に売っちまえば高値で売れるぜ」

「それを決めるのは親方だろ。俺たちは黙ってこいつをアジトまで運べばいいんだよ」

「ねー、ばーちゃんちそっちじゃないよ」


来た道とは逆の方に歩き出した男二人に、智実が困ったように眉を下げた。