メイド。英語表記では「maid」であり、決して「まいど」等とは読んではいけない。

一年生のほとんどが、入学してすぐにふざけてそう読んでは、厳しい罰を与えられている。その罰とは何かって?

それは今知ることではないので、そこの物置小屋にでも置いておこう。


それで、えっと……そうだ、メイドだ。

今やオタク文化等と言う物のせいで、メイドは一般人の身近な存在になってはいるが、元来、メイドとは清掃、洗濯、炊事などの家事を行う、使用人を指す言葉である。

実はこれも後付であって、本当のメイドというのは、未婚の少女や処女という意味が含まれており、その昔、中世ヨーロッパでは未婚の少女らが使用人として屋敷で働いていたことで、女性使用人のことを、「メイド」と呼ぶようになったのだ。


そして、時は流れに流れて21世紀。

この私立執事育成大学付属高等学校では、十数年前から時代に反映するかのように、メイド科なるものが設立された。

いや、メイド科自体は存在していたのだが、女性使用人を育てることの差別化問題のせいで、影に隠れていただけなのだ。


そのメイド科の2年生の教室に、この物語の主人公が存在する。


それでは、少しだけその様子をご覧に頂きましょう。





携帯と鏡は必需品。自身のメイド姿にしか興味がない。将来の夢は世界一キャワイイメイドさん。


他人が見たら、ただのナルシストにしか見えないが、本人曰く、「ナルシストなんかじゃない。世界一キャワイイものを見るためには、鏡かカメラが必要なの」らしい。


そんな主人公に相応しいのか相応しくないのか、イマイチ掴めない見習いメイドの生徒。

石田晴香は、今日もまた授業中にも関わらず、新しいメイド服に身を包んだ自分自身を、ファインダーに収めていた。


「石田さん、そういうことは休み時間にしてください。今は授業中ですよ」

「でもでも、今、すっごくいい時間帯なんですよ。窓から射し込む光の具合とか、体調だって今が一番絶好調だし、前の席の子が欠席してくれたおかげで、机がいい具合にラフ板の役目をしてくれるし、だからだから、今が一番のシャッター……あ、撮ります」


カシャ。ポーズを決めたまま響くシャッター音が、教室に静かに響く。呆れた教師が、頭を押さえて溜息をつきながら、「石田さん、廊下に立ってなさい」と怒った。


「廊下だと太陽の光が入って来ないよ。フラッシュよりも、自然光を活用したほうが綺麗に撮れることもあるのになぁ……先生って写真とか興味なさそうだもんね。だからキャワイクないんだよ」

「石田さん? 今何か言いましたか?」

「うわぁ! い、いえ……何も言ってません……先生って綺麗な人ですよね?」


突然開かれた扉から、覗く教師の顔に驚いた。慌てるように誤魔化す晴香の言葉を真に受けたのか、少しだけ照れたような顔を見せて、「授業の邪魔になりますから、大人しくしててくださいね」と言った。


「……はい」


授業が始まってまだ20分も経っていない。残り30分以上をどう潰そうかと、思案しながら携帯電話を開いたとき、あることを思いついてニヤリと訝しげな表情を見せた。


画面をアドレス帳に切り替える。下にスクロールして、ある人物の名前を確認すると、メールを送った。








「わあっ!!」

「宮崎さん、どうかしましたか? あなたも廊下に立ちます?」

「い、いえ、何でもありませんです」


教師の鋭い視線が美穂に突き刺さる。メイド服のポケットに入れていた携帯が突然振動したことで、思わず驚きの声をあげてしまったのだ。

バレないように携帯電話を開いてメールを確認した。そして、晴香同様笑みを零す。

パチンと閉じた携帯電話を再びポケットに閉まってから、真っ直ぐに手を挙げると、大きく口を開いた。


「先生! 石田さんが居ません!」


美穂の言葉に教室内がざわめく。教師もまた、何事かと「?」の表情を浮かべて首を傾げた。


「あ、せんせーい! 石田さんが今校庭に居ました!」

「本当ですか!? ちょっと待ってなさい、今日はもう自習にします。静かにしてるように」

「メイド服汚さないでくださいねぇ」


廊下を足早に歩いていく教師の姿を、美穂が手を振りながら見送った。ゆっくりと扉を閉めてから、「ふぃー」と額を腕で拭った。


「ありがと。後であたしの写真好きなだけあげるよ」

「いらないよ。てか、後で怒られるよ。折角、今日はメイドの極意を教わる日だったのに」

「いいからいいから。そんなことよりも、この時間のこの体調を逃すと、次の最高のシャッターチャンスは、明後日くらいに伸びるんだから」

「はやっ! それだったら、別に明後日でも良かったじゃん……」


「いいのいいの」そう言う晴香の顔は終始笑顔のままだ。正に命を掛けたシャッターチャンス。

フリルの付いたメイド服が揺れている。携帯電話を美穂に渡して、全身を50枚程撮ったあたりで、教師が戻ってきた。


就業のチャイムの音と、教師の怒鳴り声が重なる。


晴香と美穂の悪戯は2年に進学して、本日で14回目。教師もそれなりに警戒はしているのだが、今日もまた騙されたことで放課後まで説教をされ続けた。


「あの……怒られてるあたしを撮ってもらっても」

「いーしーだー」

「すみません……」


頭を垂れた晴香と美穂の傍で、同じく怒られている生徒が一名。


メイドの授業で「ご主人様」とどうしても言えないと訴えているのは、メイド科3年の峯岸みなみだ。


「だって、みんなみたいに笑顔で『ご主人様♪』なんて……あー、想像しただけで寒気がした」

「貴女の家系は、代々メイドでしょう? お母様はニューヨークタイムズの表紙を飾るほどの凄い人なのに」

「親は関係ないんで。私にはメイドなんて無理なんですよ」


ぶつぶつと愚痴を言い続ける峯岸に、教師が困った顔で呆れていた。それを晴香と美穂が説教されているのも忘れて眺めている。

そして、二人で顔を見合わせた。


「はるきゃん」

「みゃお……」

「あの人にメイドを教えてもらお!?」


同時にそう言うと、立ち上がって両手を合わせた。


「代々メイドの家系だもんね?」

「授業を受けるよりも勉強になりそうだよね?」


うんうんと頷く二人の頭上に、我慢出来なくなった教師の拳が振り下ろされた。


頭は痛かったが、面白いものを見つけた二人の目は輝きを失っていない。


こうして、二人の最強のメイドになる夢の一歩が踏み出された。











も、もう絶対に続かないんだからねっ!!!!!







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次回

「あたしたちと一緒に最強の萌えメイドを目指しましょうよ!」


だから、続きませんw