メータリュに頭を下げたアスカータが、テーブルの椅子に腰掛けたノンテに気づいて頬を緩めた。
傍に立っていたマナが同じく、ノンテを見つけてほっと息を吐く。思っていたよりも緊張していたらしい。
そのノンテも、マナを見つけて軽い微笑を浮かべていた。だが、その瞳は何故か悲しさが滲み出ている。それを疑問に思うよりも先に、メータリュが口を開いた。
「四人とも、よく無事で戻ってきてくれました。まずは、ご苦労様と言っておきましょう」
四人の顔を眺めたあと、視界はそのままマナへと移った。一切の笑みを浮かべることもなく、品定めするように足から頭まで見回した。
頭上の輪っかも、背中の翼も天使そのものの姿だったが、その内に秘めている波動は確かに天使以外のものを感じた。そのマナはといえば、メータリュと目を合わせないように、ずっと下を向いている。
「その子は、天使界に幸福は呼んでも、災いを呼ぶような」
「決めるのは私よ。貴方は黙ってなさい」
苦笑を浮かべたノンテが、叱られた子供のように背中を小さくした。悲しげな表情が、不安に染まる。
しばらくマナの姿を見つめていたメータリュが、今度はアスカータを見つめた。
見つめあう二人の視線は一切の揺れはなく、先に口を開いたのは、メータリュだった。
「確かに、あなたの子のようね……」
そう言ったあと、軽い溜息を吐きながら、一度だけ目を伏せてみせた。
「この子は天使と妖精のハーフでしょう? 今はまだ子供だけれど、この先大人になると、一体どんなチカラを手に入れることになるのか……それが天使界に災いを呼ぶことに」
「未だかつて、妖精が他の種族に災いをもたらしたなどと聞いたことがございません。むしろ、我々天使のせいで妖精は滅びたはずじゃないのかの?」
遮ったのはノンテだった。メータリュの眼光が鋭くなる。その表情に肩を震わせたマナが、アスカータの服をギュッと掴んだ。
青白い光がぼんやりとマナの体を包み始める。それに気づいたアスカータが、マナの頭に手をやった。
「天使長様、見ててください」
手のひらに自身の天力を込めると、マナに向かって放出した。
それに反応するかのように、青い光は輝きを増し、見る見るうちにマナは大人の妖精へと姿を変えた。
薄桃色の四枚の羽が僅かに羽ばたいている。茶の掛かった長い黒髪は、黄金色に美しく輝いていた。
長い睫は、瞬きをする度にその瞳を煌かせて、メータリュは思わず喉を鳴らしてしまった。
「妖精と言うのは、ワシらと違って、大人にはいつでもなれるように出来ておる。ただし、条件として、植物に宿らなければいかんがな……マナは、元々大樹に宿っておった妖精じゃ、今は天使として子供ではあるが、妖精としてはいつでも大人の姿になれるはずなんじゃ。だが、アスカータ様のお力がないと、今は一人では何も出来ないようじゃの」
「ちょ、ちょっと待ちなさい。妖精になったからって、どうなるというの?」
「ただの妖精ならば、子を生むことは出来ぬが、妖精の女王は子を生み出すことが出来るんじゃよ……」
そこまで言うと、ノンテは一度立ち上がってマナの元へと歩いた。折れ曲がった腰を杖で支えながら、マナを見上げて、微笑んだ。
「マナ……お前はまだ気づいておらんかもしれんが、お前は子を生み出すことが出来るはずじゃよ」
「だから、ちょっと待ちなさい。女王ってどういうこと? その捨て子は妖精界の女王とでもいうの?」
「そうじゃ。あの大樹マナに宿っておったんじゃから、そうに決まっておる。第一、妖精というのは、女王以外はみんな20センチにも満たない大きさなんじゃから」
ノンテの言葉に驚いたのは、メータリュだけではなかった。アスカータらの背後に口も開くことなく佇んでいたミネミャたちもまた、顔を見合わせて驚いていた。
マナの体を包んでいる青い光が輝きを失いながら、元の天使の姿に戻りかけていた。
「え? そうなの?」
「知らなかった……