梅田彩佳は、かすかな茂みの音に、自身の体を硬直させた。
その音が自分自身で起こした音だと気づいて、安堵したとき、林の向こう側に見える人影にあらためて拳銃を握りなおした。シグ・ザウエルP230は小さな拳銃だったが、彩佳に安心感を与えるには十分すぎるほどの武器だった。
呼吸が荒くなるのがわかる。ゲームが始まってまだ十時間ほどしか経ってなかったが、ずっと警戒心を研ぎ澄ましてきた彩佳には、もっと長く感じられていた。
敵――だろうか。いや、敵に違いない。学校を出てすぐのところには、智美とちさとの死体があった。あれは紛れもなく、誰かが殺した後だ。だとすれば、この島のどこかに二人を殺したメンバーがいる。
その恐怖心はいつまでも彩佳に着いて回る。思い出すメンバーの笑顔が全て、殺人者が見せる不敵な笑みに思い出させて仕方がなかった。
茂みから体を半分だけ出して木々の隙間から人影を確認する。
確認してから、彩佳はそれを敵だと確信した。目の前に立っているのは拳銃を構えた莉乃の姿があったから。
「梅田さん?」向こうからも彩佳の存在が見えたのだろう。莉乃が確かめるようにそう呟いた。
「わたし達は敵じゃありません」
じゃあ、さっき構えていた銃はなんだったのだろうか。あれは自分を殺すための道具ではないのか。もしかしたら、そうやって油断させといて殺そうとしているのかもしれない。
「だ、騙されてたまるもんか。敵じゃないんなら、それは何?」木の幹を背にして背中越しに問う。
その問いに、莉乃が慌てふためいてるのが、背中越しに伝わった。
「証拠に、その銃をこっちにやってよ」木の陰から右手だけを差し出す。「できないんでしょ?」
時間にして数秒の間、莉乃は黙っていたが、すぐに手に持った拳銃を彩佳のいる木のすぐ横に放り投げた。
茂みの中に黒い鉄の塊が飛び込んだのが見えて、彩佳はもう一度思案した。
「他に武器は?」
「……な、ないです」
莉乃の弱々しい声に苦笑が漏れる。嘘か本当かは別として、彼女に人を殺せるだけの勇気がありそうにもなかった。それだけ、莉乃の声は震えていた。
彩佳が姿を現す。拳銃を莉乃に突きつけて引き金に指を掛けたまま。
「武器を捨ててどうやって戦うの――――」
このまま莉乃を撃ち殺して逃げ出すつもりだった。震えて銃を捨てるようなやつは生きてる価値がないから。
自分は弱い人間だ。だからこそ、一人で怯えて震えていた。だが、ここにいる莉乃はその私に怯えていたようだった。だから、彩佳はこの島で初めて優越に立てる存在を殺そうと考えた。
なのに、そこには莉乃以外にもう一人居た。
「騙したね……」目を見開かせて驚愕する彩佳に、拳銃を突きつけていたのは、仁藤萌乃だった。
「騙してないです。さっしーは本心で喋って、本当に武器を捨てたんですから」
彩佳が震える指先で引き金を引こうとしたとき、萌乃のワルサーP99が先に火を噴いた。
自動拳銃のそれは、連続で四発の弾を彩佳の体を打ち抜いていた。
それは、ドラマや映画のワンシーンのような、奇天烈な吹き飛び方をして、彩佳は地面に横たわった。指先から拳銃がポトリと落ちる。
ガタガタと歯を振るわせる莉乃の横を通り過ぎた萌乃が、シグ・ザウエルを拾い上げて笑った。
「近くにバッグがあるはずだよねぇ」
そう言うと、先ほど彩佳がいる場所をキョロキョロと窺いながら、バッグを探した。
莉乃は目の前の光景に足が竦み、地面にお尻を着いたまま、彩佳の死体を見つめていた。