夏海、麻衣、才加、美香を乗せた亜美菜サンタのソリは、トナカイ理沙によってサンタの国へと向かっていた。

宙に浮いているソリに乗っていることに、麻衣たちがはしゃがないわけもなく、始終、ソリの上で暴れる三人を夏海がどうにかこうにか大人しくさせたのだが、事件はこれだけでは済まなかった。


道中、亜美菜と理沙が喧嘩を始めてしまった。


「だから、もっと速く走れるはずでしょ!? なんでいっつも手を抜くかなぁ?」

「うるさいな。いっつも乗ってるだけじゃん。そのくせ、文句が多すぎなんだよ」

「サンタがいないとただのトナカイの癖に。文句が多いのはなるるのほうじゃないの?」

「そのトナカイがいないとプレゼントを一個も配れないのはどこの誰ですか? そんなんだから、日にち間違えたりするんだよ」

「そ、それはなるるだってそうじゃん。あたしをここまで連れてきたってことは、同じように勘違いしてたんでしょ?」

「私は気づいてたけどね。判ってたけど、敢えて言わなかったんだよ」

「嘘だね。早くしないとクリスマス終わっちゃうよ。とか言ってたじゃん。だって、なるるって勘違いでもしないと、クリスマスでもないのに、あんなに速くソリ飛ばさないもん」

「う、うるさい! また落っことすよ」

「あんた達いい加減にしなさーい!」


ヒートアップしていく喧嘩に、夏海が限界を超えて間に入り込んだ。二人が、いや、一人と一匹がキョトンとして夏海を見やる。


「ったく、あんたたちいい加減にしてよね。だいたい、喧嘩するたびにソリから人を落っことそうとするのを、まず止めなさい」

「だって……」

「だってじゃない。この子は慣れてるからまだいいものを、もし、落ちた先に人が居たらどうするの? 夢を与えるサンタが人殺しとか最低でしょ?」


しゅんと首を竦めた理沙が、俯いたままトボトボとソリを引いた。後ろで亜美菜が「そーだそーだ」と囃し立てる。


「あんたも反省しなさい」

「えー」

「えーじゃない。この子がいないとあんたもサンタにはなれないんでしょ? だったら、仲良くしてあげないと」

「……はい」


なんでこんな所で、サンタとトナカイに説教をしないといけないんだろうか。ションボリしている二人を横目に夏海は盛大に溜息をついた。


「なっちゃん……すごーい」

「すごくない……」


サンタに説教する夏海を尊敬の眼差しで見つめる麻衣の瞳は、キラキラと輝いていた。それを見て、夏海はもう一度溜息をつく。


そうこうしてる内に麻衣たちを乗せたソリはサンタの国へと入国した。


「あ、忘れてた。これ被って」


サンタの赤い帽子を手渡され、麻衣たちは思うようにそれを被る。どうやら、これを被っていれば、サンタの国に入れるらしい。


ソリが入国ゲートを潜ると、そこには雪が降り積もる白銀の世界の中に、赤い屋根の町並みが広がっていた。

空には亜美菜と同じような格好をしたサンタが沢山飛んでいる。


そこはまさしく、サンタの国だった。








その頃、残されたヒーロー部員は。


「ふわぁ……ねむ……」

「なっちゃんたち、もう着いたかな?」

「着いたんじゃない……ふわぁ……あーあ、暇だなぁ……ボクも着いていけばよかった」


机を枕代わりにして突っ伏したまま眠ろうとする友美の傍で、麻友が窓から空を眺めていた。

晴香は相変わらずの状態で、香菜は本日三度目の失敗作を造り上げ、地味な爆発音を時折鳴らしていた。


「早く帰ってくればいいのに……」


友美が眠そうに呟いた。








戻って、サンタの国。


無事、入国できた麻衣たちは、サンタの国の街を歩いていた。見たこともないようなお店が幹並みに並んでいる。

その先の小高い山の天辺に、大きなお城のような建物が見える。恐らく、あの建物に、亜美菜の言うおっきなサンタさんがいるのだろうと、夏海は思った。

理沙がソリを引っ張ってそのお城まで飛んでいっている。


「あそこが、おっきなサンタのいる建物だよ。あなたたちは近づかないでね。じゃないと、ニセサンタだってすぐにバレちゃう――って、いってる側から……」

「先に、おっきなサンタとか言うから……」


お城のような建物に全速力で走っていく麻衣たちの背中を見送りながら、夏海は亜美菜に同情した。


「あの子たち牢屋にぶち込まれちゃう……そして、あたしもおっきなサンタに怒られちゃうんだ……」

「牢屋ねぇ……才加がいるから一応安心だとは思うんだけど……でも、おっきなサンタに迷惑かけちゃまずいよね」


夏海も渋々麻衣の後を追った。お城の前まで来ると、門番の兵士が二人気絶している。どうやら才加がやったようだ。

それを見て、呆れた夏海が、申し訳なさそうに「ごめんくださーい」と言い、中に入った。


中に入ると、またもや兵士が気絶している光景が広がった。一体、どれだけの人に危害を加えているのだろうか。

二階へと足を運ぶと、大きな扉が目に入る。そこに手を伸ばそうとすると、背後から腕を掴む者が現れた。


「それ以上は絶対ダメ。じゃないと、みんな殺されちゃうから」


腕を掴んだのは亜美菜だった。その顔は真っ青だ。本当にヤバイ状況なんだと理解した夏海の目に、大きなサンタが映った。

亜美菜の背後にいるそのサンタは、身の丈10メートル以上はありそうだった。

その瞬間、夏海の記憶が飛んだ。








一方その頃、ヒーロー部では。


久し振りに鳴り響くドラムロールとスポットライトに、眠っていた友美が迷惑さそうに目を覚ましていた。


「今日という今日こそは、ヒーロー部をかいさ……あら? なんか人数が少ないわね……?」


久し振りの登場シーンにも関わらず、人数の少ないヒーロー部の面々に由紀が拍子抜けした。


「大島さんと秋元さんなら、サンタの国へ行ってますよ」

「あら、そうなの? じゃあ――って、そんなの信じるわけないでしょ! いいから早く連れてきてちょうだい」


さらりと言いのけた麻友の言葉など信じるわけもなく、由紀が怒った口調で教壇の上に仁王立ちした。


「ねえ、ゆきりん。サンタの国ってどこにあるの?」

「いい? まぁちゃん。このヒーロー部ってところはね。嘘しか吐かないの。だから、信じちゃだめよ」

「じゃあ、たけのこの里はぁ?」

「そ、それは……まだ覚えてたのね……」


記憶がフラッシュバックして蘇る。ほぼ一年前に、不意についた嘘を実行すべく、真奈美と共にたけのこの里を目指したこと。結局、由紀だけが九州までノンストップのたびをしてしまったあの嫌な思い出。


「たけのこの里のことはもう忘れてね」

「なんでぇ? いつ連れてってくれるの?」

「だ、だから……それは……」

「有休使う?」

「いや、それはないから……」

「ふわぁ……」


友美が再び眠りにつく間、この言い争いは暫くの間、続いた。









戻ってサンタの国。


夏海が目を覚ますと、そこは冷たいコンクリートの上だった。目を開けた先には鉄格子。どうやら、牢屋に入れられたようだった。

起き上がろうとしたとき、腕が思うように動かなくて地面に頬をぶつけてしまう。

両手を後ろで繋がれていて身動きが取れないようにされていた。


「なっちゃん大丈夫?」

「くそっ……力が入らねぇ」

「まいまい?」


同じように両腕を後ろで繋がれている麻衣たちが、そこに居た。


「無理だよ。この手錠はどんなに力を入れても切れないんだから」


同じく捕らえられてしまった亜美菜が才加にそう言った。どうやら、人間をサンタの国に連れ込んだのがバレたらしい。

少しだけ申し訳なさそうに夏海が謝ると、亜美菜は笑って許してくれた。


「大丈夫だよ。おっきなサンタだってサンタクロースなんだよ。その内許してくれるよ」

「ねえ、これなに?」


亜美菜がそう言った矢先、美香が牢屋の隅で、なにやら頭蓋骨を見つけてしまったらしく、それを見た亜美菜の表情が一変した。


「緊急事態!緊急事態! なるる助けてーっ!」


笛らしき物をピーッと鳴らす。それに応えるように、亜美菜の首飾りが赤く光って声が響いた。


『ごめん。そこは無理』

「そんなぁ……」


それは理沙の声だった。どうも、ここは簡単に入ってこれるような場所じゃないらしい。てことは、脱出も不可能ってことだろうか? なのに、なんで不安になれないのだろうか。今まで色んなことに巻き込まれ過ぎたせいなのかもしれないなと、夏海は思った。


「その首飾りすごいねー。喋るんだ?」

「え? いや、これは、なるるとあたしで繋がってるから……どこに居ても連絡が取れるだけだよ」

「へー、携帯電話みたいなものかぁ」


胸元から覗かせた首飾りに麻衣が興味深げに見ている。その光景を見た夏海が、なにかを思い出しかけていた。

ソリの定員人数は五人。なのに、最初から五人以上居た気がしたのは、理沙が人間っぽかったからとかではない。

今、この場にいるのも五人のはずなのに。なのに、ずっと違和感だけが夏海の胸に引っかかっていた。

亜美菜の胸元の首飾りを見たあと、麻衣の胸元を見る。そして思い出した。


「あ……はるごん……」












つづく








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サンタの国で大暴れ?


幽霊には何にも効きません!


次回

「ゴンゴンはるごん、サンタの国に参上!」


お楽しみに