少しずつ、海面から太陽が顔をだしてきているのが見えた。

木々の隙間から漏れる陽の光が、澄んだ空気を透かしてくれる。それは肌に触れると、冷たい蒸気のように、大島優子の頬を濡らしてくれた。

あの後、ちさとの死体に駆け寄った優子は、新たな出発者の気配を感じ取り、その場を一目散に逃げ出してしまっていた。

なぜ、逃げなければいけないのか、走りながら考えた。結果、あの場にいることで、自分が智美とちさとを〝やった〟と勘違いされる危険性と、それを見た誰かに殺されてしまう可能性を感じたからだった。

ここで初めて優子が支給されたバッグの中を開けた。まずは地図を広げ場所を確認する。

太陽がきちんと東から昇っているとすれば、優子は今、北西にある小高い丘の麓にいることになる。

地図とコンパスを見比べて、そこが地図上のC-3であることを知った。

そのとき、がさがさという音が聞こえ、優子は神妙な顔つきをした。多少の緊張を感じ、バッグの中に入っていた、鎌を構える。

自分の呼吸音が妙に耳につく。その向こう側から、先ほどよりも大きな草の擦れる音が聞こえた。

いつでも逃げれるように、バッグは肩に提げたままだ。その音が、ほんの数メートル先で止まった。

気づかれた。そう思った。だが、その音の主は、いつの間に移動したのか、優子のすぐ横で顔を出して抱きついてきた。

「優子、見っけ!」

心臓が跳ね上がるほどの驚きに、優子が持っていた鎌から手を放す。抱きついてきた相手の顔が見えなかったが、その声には聞き覚えがあった。

「才加……?」

長い髪が風で揺れる。一度体を離すと、秋元才加は白い歯を剥き出しにした笑顔で、優子の肩に両手を置いた。

戸惑ったままの優子の唇が、才加に疑問を投げかけようとしたとき、辺りに大きな声が響いた。

『皆さんおはようございまーす』

戸賀崎の声だった。スピーカー独特の音割れが、優子の耳に不快感を与えた。

『午前六時になったぞー。みんなちゃんと殺し合いしてるかぁ?』

才加が視線を上に向けて、辺りをキョロキョロと伺っている。恐らく、スピーカーを探しているのだろう。そんなのはお構いなしに、戸賀崎の明るい口調が、さらに続いた。

『それでは、これまでに死んだ者を発表しまーす。まず、みんなご存知、増田有華』

優子の表情が一瞬強張った。それは才加も一緒だったようで、優子の肩に置いた手のひらがグッと力強く握られた。

『続きまして、河西智美、中田ちさと、藤江れいな、高城亜樹、宮崎美穂、近野莉菜、松井珠理奈』

僅か数時間の間に、これだけの人数が死んでいたことに、優子は驚いた。誰かが殺したのか、はたまた自殺でもしたのか。名前を読み上げられたメンバーが死んだだなんて信じられなかった。現に、その内三人は死んだのをこの目で見たのだけれど。

『――まあまあのペースだなぁ。もっと頑張ってもいいんだぞ。じゃあ、次は禁止エリアを発表しまーす。今からエリアと時間を言うから、ちゃんと地図を出してチェックしとけよ』

才加の手が肩から離れた。地面に置いたバッグを開けると、地図を取り出す。それに倣って、優子も同じように地図とペンを取り出した。

『では、まず、七時にH-1エリアだぞ。七時までにそこを出ないと死んじゃうからな。じゃあ、次――』

H-1は学校のすぐ西隣のエリアだった。

『――三時間後の九時は、J-2だぞ』

J-2は学校から南側に位置する、海岸沿いだった。そして、集落のすぐ傍でもある。

『そして、最後に五時間後の十一時な。十一時にはB-10だぞ。B-10、わかったか?』

B-10は島の最東端に位置する場所。周りが崖になっていて、普通なら誰も寄り付かないような場所だった。

『以上です。じゃ、続けて殺し合いを再開してください』

そう言うと、戸賀崎の放送はぶつっと切れた。

今のところ優子たちには禁止エリアは関係なさそうだった。バッグの中に地図をしまうと、才加が立ち上がった。

「無事だったんだな」先ほどの笑顔はもう無かった。続けて口を開く。「ここを出るぞ」

優子が口を開けたまま、才加を見上げる。見上げた先には、真剣な瞳。その瞳の中には、優子の姿が映っていた。

「ちょっと待って。出るってどういうこと? だってさ……え、え?」

突然現れた才加と、戸賀崎の放送。そして、名前を呼ばれたメンバー。優子を混乱させるには十分すぎる材料だった。

それに加えて、目の前の彼女は脱出をすると言っている。

どうにかパニックになりそうな頭を元に戻して、一度だけ大きく深呼吸をしてみた。

そして、才加の力強い目を見つめる。

「本当に?」

その言葉に、才加が大きく頷いた。