菊地あやかは、出発したあと、すぐに森の中に隠れ、受け取ったバッグの中身を確認すると、拳銃を見つけた。

その拳銃の名前がH&KUSPと判ったのは、一緒に入っていた説明書を見たからだ。必死に説明書を読む。月の明かりは森の木々の枝で阻まれ、ほとんど字が読めなかったが、これまた一緒に入っていた時計を見つけ、適当に触っていると、バックライトが点灯した。

それを頼りに、説明書を読んでいると、学校の裏口、先ほどあやかが出てきた場所から、篠田麻里子が現れた。

その音に気づいたあやかは、慌てて点灯したままの時計を服の中に隠し、身を低くしたまま麻里子が通り過ぎるを待った。

そして、説明書通りに弾を装弾し、茂みの隙間から扉付近を様子見る。

ガタガタと震える肩を押さえつつ、キィ、という音に耳を傍立てた。

現れたのは戸島花だった。警戒しているのか、扉の前で一度辺りを見回してから、バッグを肩に担ぎなおして、歩き始めた。

さあ、今だ。撃て。そう思うが、震えて引き金が引けない。その震えのせいで茂みの草がサワサワと揺れている。

一瞬、花がこちらを見た気がして、あやかは慌てて身を低くした。

唇を噛み締めて震えを押さえてる内に、佐藤亜美菜が出発し、その後、石田晴香も出発していた。

拳銃を両手でしっかりと握ると、もう一度扉のほうに体を向ける。タイミングよく現れたのは河西智美だった。

今度こそ撃たなきゃ。深呼吸を数回してから智美に向かって銃口を向けた。

智美はというと、辺りを警戒するように学校の壁に沿って移動をしている。その姿が見えなくなる前に、あやかは、まずは一発銃弾を放っていた。

それは運よく脳天を貫き、智美がグラッと仰け反った。それを見たあやかは、智美がまだ生きていると思い、さらに数発、拳銃を撃っていた。

奇妙なダンスを踊るようにして、智美がようやく倒れた。銃口から流れる硝煙が、あやかに現実を見せてくれていた。

罪悪感と恐怖心が一気に襲い掛かり、あやかはその場で膝を抱えて座り込んだ。

小野恵令奈が出発したとき、たまたま智美に気づかなかったのか、それとも気づいたのに、敢えて避けただけなのか、あやかはその様子を背中越しに感じていた。


「ともーみ……?」

その言葉にあやかが反応する。振り返った先には、大島優子。

智美の死体に気づいた優子がそこに居た。咄嗟にあやかの脳裏に浮かんだのは、〝殺さなきゃ〟この言葉だった。

H&KUSPを構え、ジリジリと近づいた。もう少し前に出ないと的に当たらない。

その時、優子があやかの方を振り返った。バレた。そう思って一歩だけ後退りする。

「何やってるんですか?」中田ちさとの声が聞こえ、続けて優子が「来ちゃダメ」と叫んだ。

それが引き金になった。驚いたのはちさとだけではなく、あやかのほうも優子の声にびっくりしていた。

単に的が大きかっただけだ。それだけの理由で、あやかはちさとに向かって銃弾を放っていた。

続けて三発。ちさとが死んだのを確認すると、あやかはバッグを手にして走り出していた。



どれだけの距離を走ったのだろうか、体中に無数の切り傷を作り、髪はボサボサで、枯葉がいくつもくっ付いている。大きな木の幹を背もたれにして座り込むと、何度か深呼吸を繰り返した。

バッグを抱え込むように持ち、拳銃は右手にしっかりと握ったまま。出発したばかりの智美とちさとを殺したのは自分だ。拳銃を撃ったときに伝わる感触が、しっかりと両手に染み付いている。何度か左手を握ったり開いたりして確かめた。

罪悪感よりも、恐怖心のほうが強く感じるのに気づく。もしかしたら、優子は自分の顔を見たのではないかという不安。今頃、他のみんなと自分を捜し殺す相談でもしてるのではいか。そう考えると、先ほどよりも体が震え、色んな音に敏感になってきた。

バッグを抱え込んだ両手をきつく抱きしめる。奥歯がカタカタと震えた。

「なんで撃ったんだろ……」

今頃になって、自分のしたことに後悔した。あそこで声を掛けて、これからどうするか、一緒に考えれば良かったんじゃないか。

だが、その考えは、すぐにもう一つの考えによって打ち消された。

あのとき、出て行けば、自分が殺されてた。

そう思うことで、罪悪感だけは打ち消すことが出来た。ただ、恐怖心だけはどうやっても消えない。

右手に握ったままの拳銃だけが、あやかの唯一信頼出来る物に違いなかった。それが判ってか、どうかは知らないが、あやかはH&KUSPをしっかりと握り、見つめていた。


秋の昆虫が無常にも、美しく鳴いていた。