秋も深まる10月の終わり。旧校舎に出来た新たな同好会のようなクラブが活気に満ち始めていた。


そんな午後3時過ぎ。


不良グループの番長、峯岸みなみが同じく不良グループの高橋みなみとなにやら相談事をしている。


「じゃあ、みんな誘ってゲーセンでもいくか?」

「だね。またUFOキャッチャー相手に、キャッチボールしようよ」

「そんなことよりも楽しいことあるだろ? レーシングゲームで箱乗りとかさ」


そんな意味不明な会話をしていると、いつものように明日香が息を切らせて走ってきた。


「はあ、はあ、はあ……みね、峯岸さん……はあ、はあ、たい、大変です……」

「ちょっと落ち着けよ。誰が変体だって?」

「大島さんが……って、いや、そうじゃなくて。大島さんが大変なんです」


呼吸を整える明日香が、手に持った袋を地面に落とす。その瞬間、どこからともなくやってきた愛佳が、慌ててその袋をキャッチした。

嬉しそうに開ける袋の中身は、コアラのマーチである。それを一つ開けると、これまた嬉しそうに食べ始めた。


「で、何が大変なんだよ? 大変なのは今からいくゲーセンのことだろ? なあ、たかみな」

「そうだね。今からゲーセン荒らしに行くからね。明日香ちゃんも来る? プリクラをシールがなくなるまで撮り続けようと思ってるんだ」

「貢献してますよね、それ……って、そうじゃなくてですね。大島さんがぁ――」

「あいちゃん、UFOキャッチャーのUFOが欲しいなぁ」


どうにもこうにも、明日香の思い通りに事が進まない。呆れて溜息をつこうとしてるとき、どこか遠くから、爆発音が聞こえた。









「だから、あんた達いつも言ってるでしょうが! 香菜の発明品は部室では試しちゃダメだって! 半径200メートル以内に誰もいない広い場所でやってきなさい!」

「なっちゃん恐いよー」

「恐くなーいっ!!」


明日香とは別の意味で息を荒げている夏海が、呼吸を整えるよりも先に、溜息を大きくついた。

晴香の携帯のシャッター音が鳴り響く部室に、扉の開く音が申し訳程度に響く。


「お? 副番長さんのお出ましだぞ。なんか用か?」


筋トレ中の才加が扉の向こうの優子に気づく。麻友が注いだお茶を人数分に分けていたのだが、もう一人分増やそうと慌てて急須にお湯を注ぎ始めた。


「ちょっと、いい?」

「え? わたし?」


優子の目は明らかに夏海を捕えていた。疑問に思いながらも夏海が部室を出て行く。扉を閉める際に、麻衣が夏海に「がんばれー」と言っていたが、それに関してはいまいち意味が判らなかった。










「おいおい、そんな冗談、わたしたちに通じると思ってるのか?」

「ほんっと、明日香ちゃんって、たまにそういう面白くないこと口走ったりするよね?」

「明日香ちゃん、ジュースはぁ?」

「冗談なんかじゃありません。この耳でちゃんと聞いたんですから」


話を信用してくれない峯岸と高橋に明日香が、本気で困った顔をした。その横で愛佳がしょんぼりとイジけているのは、会話を無視されたからであろう。「あいちゃんのジュース……」と、小さくぼやいていた。









「何?」

「ちょっとおお願いがあるんだけど、いいかな?」

「……変なことじゃなければ」

「その警戒心流石だよね? やっぱ、なっちゃんを選んでよかった」


何だろう。笑顔なはずなのに、すごく寂しそうな顔をしている気がする。それくらい、優子の表情は切なくみえた。


「私、転校するんだ……」

「え――」


目の前が一瞬だけ止まったように感じた。それが敦子の悪戯であれば、どんなに良かっただろうかと、夏海は思った。

優子の笑顔が消える。








「大島さん、もうすぐ転校するんですってば。なんで信じてくれないんですかぁ」

「そんな訳ないだろ。わたし達はみんな、ここをちゃんと卒業するって誓った仲だろうが」

「そうですけど。でも、さっき職員室で……」


今にも泣きそうな明日香の目は、黒く深い闇に閉ざされているようにも見える。それは、初めて明日香に出会ったときと同じ目の色だった。

峯岸が舌打ちをして、コンクリートの壁に拳を打ち付ける。


「チッ。もし、それが本当なら、わたしは優子を殺さないと気が済まねぇ」

「みぃちゃん?」

「あいちゃんのジュースは……」


止めようとする高橋の腕を振りほどき、峯岸は校舎裏を後にした。








「そんなの無理だって。わたしにはあの子たちだけで手一杯だし」

「だから、お願いしてるんじゃん。どんな人に対しても、物怖じしないでツッコミを入れるその才能を見込んでさ」

「あんま嬉しくないんだけど……」

「優子ーっ!!」


中庭に轟く怒声。その声にいち早く反応したのは優子だった。夏海が驚いて優子を見る。


「もう、バレちゃったみたい。ちょっと待ってて」

「え……でも」


笑顔でそう言うと、優子は峯岸の元へと歩み寄った。その差3メートルほどまで近づいたとき、峯岸の蹴りが鼻先を掠った。


「危ないよ。みぃちゃん」

「うるせぇ! 文句は言わせないからな。今すぐわたしとここで決闘しろ」


中庭に響く峯岸の声。優子は相変わらずにこやかに笑っていた。


秋風が心地良い。前髪を持ち上げた風が、木の葉を数メートル先まで運んでいった。


峯岸みなみの怒声は、涙に塗れて千切れた雲のように、空へと消えていく。


顔を腫らした峯岸の頬に、いくつもの滴が流れては、落ちていった。










この日、大島優子は学園を、いや、不良グループを脱退した。









つづく







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副番長不在で不良グループに波乱が起きる?


新たに加わる不良とは一体?


次回

「副番長争奪戦開始!」


お楽しみに