逃がしてしまった。

あと少しで殺せたはずなのに。あと少しで自分の命は守られるはずだったのに。


彩佳の住むマンションの前で、明日香はタクシーが進んで行った方向をじっと眺めながら、佇んでいた。

どれくらい佇んでいただろうか、東の空が明るくなってくる。ポケットの中に入れていた携帯電話が、ぶぶぶと振動した。画面には知らない番号。


「もしもし」


ボタンを押して携帯を耳に当てる。通話口から聞こえる、無機質な機械音。それは人の声を通して、人工的に作られたような声だった。


「誰ですか? 悪戯ならやめてください」

『法律が変わった』


機械を通したような、その声は確かにそう言った。驚いて一度携帯を耳から離す。

これは、政府からの電話なのだろうか? だとしたら、何故このような機械音を使う必要がある。

明日香は半信半疑までも、もう一度携帯を耳に押し当て、「どういうことですか?」と聞いた。


『対象者一人に対して、遂行者6名。それが新ルールだ。因みに、6名の内、生存可能者数は、期間内に任務を遂行出来た1名のみとする』


意味が判らなかった。自分以外に対象者「梅田彩佳」を狙っている人が、5人もいると言っている。

しかも、生き残れるのは、その梅田彩佳を殺せた1人だけとも。

 

「え、でも、じゃあ、この前交わした契約書は――」

『本件任務の変更は伝えた。以上』

「待って!」


プツッ。一方的に切られたことに、少々不満を感じたが、それ以上に、自分の生存可能性が低くなったことのほうが問題だった。彩佳の居場所を知らなければ行けない。

一度降りてきた階段を、もう一度、今度も先ほどと同じように走って駆け上った。