「ある日突然、時間を止める能力を手に入れたんだ。もし、この能力がなかったら、あたしは死んでいたかもしんない」


ふふ。そう笑うと、敦子は足元に視線を落とした。麻衣が「ん~?」と首を傾げる。どうやら、こういうシリアズな空気には慣れてないようだ。


「最初はね、この能力を使って人助けをしてたんだよ。そしたら気づいたんだ……世の中ってのは思ってたより平和じゃなかったんだって……」

「そうだよ!だからヒーロー部が立ち上がったのだ!」

「別に何も活動してないでしょうが……」


拳を突き上げた麻衣の襟首を掴んだ夏海が、右手を差し出して「続けて」と促した。敦子が頷く。


「信じられる? 交通事故って毎日のように起きてるんだよ? こんな辺鄙な街中で毎日。自殺だってそう、他にも万引きとか強盗とか。それらを見つける度に、あたしは時間を止めて回避してあげてたんだ。あたしがこの街の住人を守らなきゃ、なんて思ったりしてた……でも、それももう終わったの」


敦子が俯いたまま小さく笑むと、友美が「それ長くなる?」とつまらなそうに訊いた。夏海の無言のハリセンが頭に飛ぶ。


「ある日ね、あたしは強盗犯を一人捕まえたの。コンビニ強盗だった……その犯人は上手いことやって、逃げ切ったんだけど、あたしに見られたのが運が悪かったんだね。時間を止めたあたしが、コンビニの前まで連れ戻してやったんだ。びっくりした犯人は意味が判らないまま警察に捕まっちゃった」

「それはいいことしたんじゃないの?」


寂しそうに言う敦子に、夏海が覗き込むように口を開いた。敦子が首を横に振る。


「その犯人には、病気の子供がいたんだって後で知った。その治療のためのお金だったんだって……」

「ちょっと待ってよ。その子供だってそんなお金で治療なんて受けたくないでしょ? その犯人のせいで、そこのコンビニの家族が路頭に迷ってたかもしれないんだよ? だったら、あっちゃんのやったことは悪いことじゃないよ」


夏海の言葉を遮るように、敦子がさらに続けた。晴香の携帯のシャッター音が若干うるさかったので、ついでに携帯を奪い取っておいた。


「なっちゃんさーん、返してくださーい」


ぴょこんぴょこん跳ねる晴香の頭を抑えながら、夏海は敦子の話の続きを聞く。


「その子供、死んじゃったんだよ? 治療が出来なかったんだって。もし、あそこであたしが犯人を捕まえなければ……」


夏海が口を開きかけてから黙った。差し伸ばそうとした右手は空を切ったまま、だらんと重力に身を委ねた。


ガラガラ。

唐突に開かれた扉に全員が注目する。


「ねーねー、不良グループ何処にいるか知らない? わたし不良になろうと思ってさー」

「だから、あんたに不良は向いてないってさっきから言ってんじゃ……あれ? ここヒーロー部だよ……ね?」


何度も扉に書かれた文字を確認する玲菜が、生来の腕を掴んだまま口を開けて部室を見回した。

いつもの活気のなさに、戸惑ってるようだ。

麻衣と香菜は話の難しさに、眠ってしまったようで、机に突っ伏していた。才加が上から毛布を掛けていた。


「で、でも、あっちゃんさんは間違ったことをしたわけじゃないですよね? あたしだって、そんなの目の前にして同じ能力持ってたら、同じことしてたと思います」

「そうだよ。まゆゆの言うとおりだよ。だから、そんなに気にすることないと思うよ」


夏海が慌てて麻友に続く。てか、前回までの敦子のキャラと違いすぎることにちょっとだけ戸惑っていた。

これは、是非外伝のほうでやってほしいと。


「なんかお取り込み中みたいだね? ぐっさんどうする?」

「どうもしない。あんたを連れて家に帰るのが私の使命」

「えー」

「えー、じゃない!」


ゴツン。棍棒が頭上に振り下ろされた。相当痛いのだろう、生来は涙を浮かべながら蹲っていた。


「気にするよ。だって、あたしが殺したようなものだもん」


そう言うと、敦子がポケットからそっとナイフを取り出した。それを頭上に掲げる。


「あんた達みたいに、毎日のほほーんって過ごしてるヒーロー気取りの連中には、あたしの気持ちなんて判んないんだよ。だから、あたしはあなた達を殺す」

「いや、ちょ、意味が判んないよ……どうやったらそうなるの!?」

「ねえねえ、これって私達も殺されるのかな?」

「まさか、ヒーロー部だけって言ってたじゃん」


生来と玲菜の会話に、敦子が「あなた達もついでに」と笑った。玲菜が愕然とした。


「ったく……いっつもいっつもコイツに付き合う度に、こういうことになるんだから……」

「えー、私のせいじゃないよ」


生来が唇を尖らせていた向こう側で、才加が120キロのバーベルを片手で持ち上げて振り上げようとしていた。

そのまま敦子に向かって投げる。


「無理だって。そんなの時間さえ止めれば軽く避けれるんだから」

「また……一瞬で……」


才加の投げたバーベルが黒板に当たって地面に落ちる。敦子はいつの間にか窓側にまで移動していた。


「なになになになになに、この子!! すっごーい」


遅れて生来が嬉しそうに敦子を足先から頭まで舐めるように見た。玲菜が襟首を掴んで、ずるずると元に戻した。


「さあ、誰から殺そうかなぁ?」

「はるごん!あいつに乗り移っちゃえ!」

「はいはーーい」


いつの間に目を覚ましたのか、麻衣が小瓶の蓋を開けて、遥香に命令した。一直線に敦子に向かう遥香。


「よし、間に合――」


友美がそう叫んだ瞬間、時間は止まった。


「危なかった……。何この子? 幽霊?」


敦子の1メートル手前で止まったままの遥香を見つめ、苦笑いをすると、ナイフを握りなおす。


「さてと……今度こそ誰から殺そうかなぁ?」


部室をぐるりと見回したあと、敦子がニヤリと笑ってから目の前にいる玲菜に近づこうと体の向きを変えた。








一方その頃。






何故か、ゾンビやらキョンシーやらのコスプレをした生徒会が、旧校舎の方向に向かって動きを止めていた。


なんともまあ、間抜けな格好なのだろうか。








つづく







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ヒーロー部に最大のピンチきたる!


動き出したとき、そこは……?


次回

「最終回!? ヒーロー部の運命や如何に?」


お楽しみに