電流が走った。


新入社員の宮澤佐江を初めて見たときから、そんな予感がした。


彼女の笑顔を見ていると、なんだか胸がむずむずする。


印刷工場での僕の仕事は、大きなトイレットペーパーのようなロール状の紙に、印刷を施す仕事だ。


その作業を彼女が手伝ってくれる。もとい、一緒に仕事をしている。


普通高校を卒業した彼女には、全てが初めてのようで、作業内容について必ず確認を取ってくる。それが僕にとって、すごく楽しくて、そして心が浮き立つようだった。


恋。だろうか?


はっきりとした自信はない。


ある日、仕事の前の準備を始めていると、彼女がポツリと呟いた。


「私、彼氏いないんですよねー」


その表情は僕の心を切なくさせた。何を意味するのだろうか?


「大丈夫だよ。佐江ちゃんは可愛いから」

「そんなお世辞いらないですよ。友達から、あんたは男の子っぽいから、少しは女の子らしくしなさいって言われてるくらいだし」


それが君のいいとこなんじゃないか。


喉まで出掛かったその言葉は、僕の胸の中に閉まった。


「まあ、僕も彼女いないから、気持ちは判るけどね」

「え――?」


伏せていた目を、彼女が大きく見開かせると、まつ毛がピョンと跳ねたようにも見えた。


「それに、こんな男ばかりの職場じゃ出会いもないしねー」


ははは、冗談っぽく笑って見せると、彼女もくすりと微笑み返した。


ドキリ。心臓が高鳴った。


これが恋だと確信するには、十分だった。


「――そっか。彼女いないんですね……」


後ろ手に体をくねらせた彼女が、再び目を伏せて、もう一度「そっか……」と呟いた。


その仕草は、すごく綺麗だなと思えた。


作業服にも関わらず、絵になる光景につい見とれてしまう。


「ほ、ほら、始業のベル鳴っちゃうよ」


このまま見とれていると、つい告白してしまいそうで、


僕は誤魔化すように彼女に仕事の指示を出してしまった。


小さな、小さな恋の芽は、


みるみる内に、花を咲かせてしまっていた。


機械の始動音が工場に鳴り響く。




ある街の、小さな工場で起きた


ほんのわずかなLove story






fin.