「なあ、おばちゃん10円負けてくれよー」
「ダメだよ。あんた、この前のパン代も払ってくれてないじゃないかい」
昼休みの購買部。沢山の生徒達がごった返している中、ある生徒が売店のおばちゃんとなにやら揉めているのを、夏海は見ていた。
「ちぇー。なんだよケチンボだなぁ、じゃあ、チョココロネは諦めて、メロンパンにしとくよ」
「そうしときな。じゃあ、100円だよ。はい、次の子」
「あ、はい。じゃあ、これ……」
何か不思議な感じのする少女を眺めていると、順番が回ってきた。お金を払ってパンの入った袋を受け取ると、その少女は一つのテーブルを独占して、というか、テーブルの上に膝を立てて座って、メロンパンの袋を開けていた。
ちょっと危険そうなその子からなるべく離れようと、夏海が売店の外に出ようとしたとき、聞き覚えのある声が耳に届いた。
「さやかー、ここで食べよう」
「おー、珍しく席空いてんじゃん」
「ちょっとボク飲み物買ってくるね」
テーブルの上に座っている少女を取り囲むように麻衣達が椅子に座りはじめた。さも、その少女が存在しないかのように振舞う麻衣達の姿は、夏海に少しだけ恐怖を与えた。
「あ、なっちゃーん!こっちこっちぃ」
見つかった……。すぐに立ち去ればよかったものの、麻衣に見つかった夏海は仕方ないとばかりに、肩を落としてそのテーブルの前まで向かった。テーブルの上の少女と目が合う。ニッと笑顔を向けてきた少女に愛想笑いを返した。
「オッス、オラしーちゃん。メロンパン、チョーうめーよな?」
がははは、テーブルの上で笑い声を上げる少女に、夏海が苦笑いを浮かべて麻衣と目を合わせた。
麻衣の視線が上を向く。ここでようやく気がついたという顔をして、驚いて見せた。
「この子、なっちゃん知り合い?」
「ううん。知らない……」
「ん?オラんことか? オラは大家志津香ってんだ。よろしくな」
「ボクはともちんだよ。よろしくね」
ともちん、お願いだから仲良くしないで……夏海の思いとは裏腹に、友美が志津香に握手を求めていた。
その手を笑顔で取った志津香の顔が、急に苦痛の表情に歪んだ。
「いったーい! オメェの手、画鋲がついてんぞ」
「あ、ごめーん。間違えちゃったー、はははは」
「間違えたのなら仕方ないなぁ。そだ、オメェこれ半分食うか?」
「いらない」
すっと差し出したメロンパンを手で払って、友美が即答した。志津香はというと、「そっかぁ、ウメーのになぁ」と呟きながら残りのメロンパンを口の中に放り込んだ。
「ねえねえ、しーちゃんだっけ? 面白い子だねぇ? そうだ!ヒーロー部に入らn……痛い」
「誰でも彼でも勝手に入部させるなっ!」
「そうだぞ、まいまい。しーちゃんは漫研でエロ漫画描いてるんだから、忙しいんだぞ」
才加の根拠のない推測に、夏海が呆れながら頭を振った。志津香がようやくメロンパンを食べ終えてから「なんで、知ってんの?」と才加のほうを向いて驚いた顔をした。
「なんか、当たっちゃった」
「すごいねさやかー。予知能力だねー?」
「ねね、ボクの未来も当ててみてよ」
「あんたたち……」
気づくと周りにほかの生徒がいない。嗚呼、またヒーロー部の評価が下り坂に転がっていくんだ……そう思いながら夏海は溜息をついた。
「絵と画の間に浪漫がある! そう、それがエロマンガなんだ!」
「はいはい、そういうこと言ってると引かれちゃうから、止めとこうね」
夏海が呆れながらテーブルの上を見上げると、志津香は仁王立ちでポーズを取っていた。
「……で、三十歳で離婚して、その二年後にメキシコで撃ち殺されて人生終わるって出てるね」
「えー、やだよそんなの。そしたらまいの人生三十六歳で終わっちゃうんじゃん」
「三十二歳でしょ……足し算も出来なくなったのあんたは?」
「ねえ、ボクの未来も見てよー」
仁王立ちのままの志津香が笑顔のまま、動こうとしない。麻衣たちは相変わらず才加の予知能力に釘付けになっていた。
「あ、ここに居たんですね? まいまいさん、頼まれていた物コピーしてきましたよ。ついでに、あたしの写真も30枚くらいカラーコピーしてきたんで、後でお金返してくださいね」
「はるきゃん、サンキュー。みんな、これ見てよ」
「何これ? 落書き?」
人数分コピーされた紙には、子供が書いたような絵が描かれていた。その紙の中央に大きく×印が書かれている。
「宝の地図だよ。まいが、中学生のときに授業中に描いたんだ」
「ちゅ、中学って……こんな幼稚園児が描いたような地図が?」
「なっちゃんは黙ってて。そこで、今度のゴールデウィークに、この島に宝探しに行きたいと思いまーす」
「おー、俄然やる気が出たぜー」
「ちょっと……そんなの聞いてない……」
「なっちゃんは黙ってて」
麻衣、才加、友美の三人から同時にそう言われ、夏海は少しだけ落ち込んだ。
「嗚呼……折角のGWが……この子らと唯一接することのない貴重な休日が……」
「なっちゃん、オラが付いてるべ。元気出すさー」
「…………あんた、まだ居たんだ。てか、何弁?」
両手両膝を地面に着けて項垂れていた夏海に、志津香が優しく声を掛けた。麻衣達が「えいえいおー!」と叫んだのと同時に、晴香の携帯からシャッター音が鳴り響いた。
つづく
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GWの悲劇は次回のお楽しみと言うことで……orz
だって、尺が足りなかったんだもんww
次回
「幻の島を、華麗に案内。行け!しーちゃんツアーズ」
乞うご期待。