「ねえ、誰かノート落とした?」


部室に入ってくるなり、みんなにそう問いかけた麻衣の手には、黒い表紙のノートが握られていた。

全員が注目する中、才加が首を傾げながらノートを見つめる。


「なんだその黒いノート? 趣味悪いな」

「名前、書いてないの?」

「それが書いてないんだよねぇ。部室の前に落ちてたから、絶対誰かのだと思ったんだけど」


麻衣がノートをパラパラと捲る。何も書かれていない真っ白な新品のノートには、名前は書かれていなかった。


「ねえ、それなんて書いてあるの?」


表紙に書かれている文字に香菜が眉を潜める。そこには、『DEATH NOTE』と白い字で書かれていた。


「え? で……であ……の、て?」

「デスノートだよ。ほんとっ、まいまいバカなんだから」


友美にそう訂正され、ショボンとした顔をしながらノートを見つめる。才加が「ほんとほんと、まいまいはバカだなぁ」と友美側に付いていたが、実は才加も読めていなかったのは、誰もしらない。


「デスノートってどういう意味?」

「さあ? デスってあれだよ。FFの黒魔法だよ確か」

「魔法のノートなんだ? へー、すごいねー」

「バカか!お前らは!」


スパーン。お馴染みのハリセンが4人の頭に打ち付けられ、夏海がノートを奪い取った。

麻衣が頭を押さえながら「だって、ともちんが……」と言ったところで、二発目が炸裂した。


「直訳すると『死のノート』だよ。誰かが遊びで作ったんでしょ。縁起悪いから捨てよう」


夏海がゴミ箱へノートを捨てようとしたところを、麻衣が慌てて止めた。


「待って! 詩のノートなんだから、みんなで詩を書こうよ」

「違うよまいまい、師のノートだよ。師匠が弟子のために修行のメニューを書くものなんだよ」

「才加はすぐそういう発想するんだから。 これは、紙のノートで、トイレットペーパーがないと……痛い……」

「違うわっ!ヴォケ!! 死よ、死! 死のノート!」


夏海が息を荒げ空中に文字を書き伝える。麻衣と才加、友美の三人が、「ごめんなさい」と同時に謝った。


「ねえねえ、表紙の次のページに文字が沢山書いてあるんだけど、何て書いてあるの?」


香菜が地味にストーリーを進行してくれる中、麻衣が夏海に期待の眼差しで見つめていた。

友美と才加も期待に満ち溢れた目で、夏海を見つめる。


「ちょっと……何その期待の眼差し? そんな目されても、判らないよ……」


夏海がたじろぎながらみんなを見回した。いくらまともな夏海でもそこまで英文法に長けているわけではなかった。


「このノートに名前を書くと名前を書かれた人は死ぬらしいです」

「えっ?」

「そのときに、書かれる人物の顔が頭に入ってないと意味が無いらしいです」

「ちょっと……はるきゃん?」


ノートを手にした晴香がスラスラと意味を教えてくれた。夏海や麻友を含め、驚きで今にも目玉が飛び出しそうな顔をしていた。


「――――以上ですね。何か判りにくい説明とかありましたか?」

「い、いや……ありがとうございます」


全員並んで、正座で話を聞き終えた。晴香がノートを麻衣に手渡すと、再びカメラを自分に向けて写真を撮り始めた。


「よし。早速まゆゆの名前でも書いてみようかな?」

「ええ? ちょっと、まいまいさん止めてください。私には病気の母親と、腹を空かした妹たちが……」


そんなの初耳だよ……。夏海がそうツッコミたかったのをぐっと堪えて、動向を見守っていた。


「そっかあ、じゃあなっちゃんの名前でも……」

「やめ……書きやがった……」


ノートの真ん中に大きく『平嶋夏海』と書かれている。こういうときだけ、漢字を間違えないところは流石である。


「あんたねっ! はるきゃんの説明ちゃんと聞いてたの!? 40秒後に死んじゃうかもしれないんだよ!!」

「え? なっちゃん病気かなにかなの?」

「あんたのせいだよ!!」


もう終わった……。いつか過労死あたりで死ぬんじゃないかと思ってたけど、まさかこんな形で殺されるとは思わなかった。お母さん、先立つ不幸をお許しください。


「って、そこ葬式の準備がはえーよっ!!」


位牌や棺桶の準備をしている才加と友美の頭をハリセンで叩いた。その隣でお坊さんの格好をしていた香菜が、そっと袈裟を脱ぎ始めていた。頭は坊主のカツラである。


「ああ……後10秒もないや……あんたらのせいで……」

「なっちゃん……ドンマイ!」

「うるさーいっ!ドンマイじゃねないよドンマイじゃ!何を頑張れっつうんだよ!!」


両拳で麻衣のこめかみをグリグリしながら、夏海は涙を浮かべていた。そこで才加があることに気づいて口を開いた。


「ねえ、もう40秒経ってんだけど?」

「え? そ、そういえば……」

「死なないねぇ……」


友美が残念そうに、つまらなさそうにそう呟くと、ハリセンが振り下ろされた。


「もしかして……まいまいさん。名前書くときに、なっちゃんの顔をちゃんと思い浮かべました?」

「ううん、全然。名前書くだけで精一杯だもん」


麻友がため息をつく。どうやら麻衣がバカで助かったらしい。夏海はノートを手に持つと、それをぐしゃぐしゃに丸めて焼却炉にぶち込んできた。


「……今度ばかりは本気で危なかった……」


夏海は知らなかった。ヒーロー部の部室の窓から死神が今の出来事を苦笑いで一部始終見ていたということを。











おわり








真奈美 「ゆきりーん! なんかノート落ちてたぁ」


由紀 「で、で、で、であ……」


薫 「生徒会長ってバカでもなれるんだね……」






死神 「人間っておもしろっ」