葉に水滴が一つ落ちた。

体を硬直させたまま、中塚智実は茂みの中で膝を抱えて身を小さくしている。

飢えと乾きそして恐怖に怯えながら、もう何日経ったのかさえ覚えていない。

さきほど落ちてきた水滴に腕を伸ばすと、指先で掬って口に運んだ。

ポツ。もう一滴落ちてきた。智実が空を見上げると、茂みの隙間から覗いたのは、真っ黒な雨雲だった。助かった、そう思って茂みから飛び出す。

天を仰ぐようにして、雨が降りしきるのを目を閉じてジッと待った。顔の上に落ちてきた冷たい水の感触が心地よい。口を大きく開けてその全てを受け入れようとしたとき、銃声が轟くのが聴こえた。

目を見開き、音のしたほうに振り返る。雨のカーテンの向こう側には、チームKの増田有華が銃を構えて立っていた。

智実は咄嗟に自身の足元を見た。雨に融けた血が下り坂に沿って流れていた。流れる血を視線で追いながら智実は口元だけで笑った。

再び空を見上げる。喉の渇きを潤すかのようにもう一度大きく口を開ける。

「はー、気持ちいい……」

数日振りに口にする水は、例えそれが雨でも、とても美味しく思えた。ゴクゴクと喉を鳴らす。

有華がもう一発銃弾を放つと、智実の体がぐらついた。

不思議だった。あれほど恐怖心で怯えていたというのに、いざ撃たれてしまうと何も感じない。もちろん痛みは感じているが、死ぬことに対する恐怖心はどこかへ飛んでいった。

それよりも、水が飲めることのほうが嬉しかった。

天を仰いでいた智実の口に、鉄の味が広がる。込み上げてきた何かで一気に咽た。

「げほっ、げほっ……」

血だった。喉の奥から押し上げてくる血が地面に広がった。口の大きさの許容を超えたそれは、鼻からも飛び出し、智実に呼吸をすることも許さなかった。

水が欲しい。降りしきる雨で出来た水溜りに口をつける。

三発目の銃声が聞こえた頃には、智実の意識は途絶えていた。









「本当にここで待ってれば来るんだよね?」

「大丈夫。ずっとコレ見てて出した答えだから」

莉乃の問いに玲菜が頷いて受信機を見せた。

「車から降ろしたあとは、どうするの? 首輪のこと話したからって殺すのを止めてくれるような相手じゃないよ」

薫の顔は不安で引きつっていた。里英たち5人に出会えたのは幸運だった。敵じゃないことを告げて首輪を外すまでの間、喋れなかったことが一番苦労したが。その後、右足捻挫している玲菜に出会い、同じように首輪を外し受信機のことを知った。

それと睨めっこしていた玲菜が佐江たちと接触しようと提案し、今それを実践しようとしているとこだった。

尖った岩の先端にロープを結び、その反対側まで伸ばした。車が通る直前にそれを引っ張るつもりなのだが、それ以降どうするのかを明確にしていない。

「そのときは、そのときじゃない? 攻撃してくるんならこっちだって黙ってないし」

萌乃が拳銃を口元でフーっと吹いた。

「でも、雨が降ってくれたのは幸運だったね。視界が悪くなるから向こうからもこっちが見えにくくなるだろうし」

里英がロープの先端を掴んだまま、そう言うと、莉乃が「だね」と笑って言った。

「それでも、ちょっと人数多くない?」晴香が周りを見渡すと苦笑いした。

「いいんだよ。人数が多いってとこ見せといたほうが効果的でしょ?」

玲菜の受信機を覗き込んでいた莉乃が視線を動かさず晴香に返した。

「もうすぐ来る……」

玲菜が呟いた。同時に、全員が息を呑んだ。

「お願いだから、進行方向変えないでよ……」

真剣な顔で受信機を覗いていた莉乃が口にする。里英のロープを持つ手に力が入った。

画面の端で点滅する黒い丸が少しずつ左から右に移動しているのを、晴香は少し離れた場所から見ていた。