「はっ、はっ……来てる……はっ、そこまで……」
「わたしのことはいいから……みんな逃げて……」
春香のペースに合わせて走っていた愛佳の腕が引っ張られて、立ち止まった。春香が首を振る。その意図は愛佳には判らない。判りたくない。
「……もう、息をするのも……辛くなってきちゃった……」
「そんなっ……見殺しになんか……」
足を踏み出した夏海を遮るように春香が片手を前に出した。
「このままじゃ……ハァ、ハァ……みんな……死んじゃう……」
言ってから、春香は堪えるように片膝を着いた。口元に当てた手には、赤い液体がポタポタと漏れ出ている。
そこまで追ってきていた敵(恐らく優子か真奈美のどちらかだろう)が、木陰から顔を出した。何故か深く被った帽子で顔を隠している。麻友はその人物の背格好に疑問を抱いて目を見開かせた。
「大島さんじゃ……ない」
その言葉に、夏海がズボンのベルトに差し込んでいた拳銃を抜き取る手を止めた。目を細めてその人物を確認する。深く被られた帽子からは、口元だけが見えていて、それは訝しく持ち上げられている。
そして、木の陰に隠れていた右半身から素早く拳銃の姿を現すと、躊躇することなく夏海に向かって発砲した。
「なっちゃ――!!」
愛佳が叫ぶよりも早く夏海の胸から血が噴出していた。春香がゆっくりとその人物のほうへ振り返る。
「これじゃあ、予行練習にもならないね」
ニッと笑ったその口元に、麻友は覚えがあった。脳みそをフル回転させて思い出す。
――――あっ!
「美香ちぃ!」
麻友が口を開く前に、愛佳がそう叫んだ。
笑んだ口元がさらに大きく持ち上げられて、銃を持っていない手で帽子を取った。
そして、銃口を今度は麻友に向けると、何かを呟いて引き金を引いた。
銃声が鳴り響く。咄嗟に目を瞑った麻友の目の前に、春香が立っていた。
震える足を踏ん張りながら立つ春香が口をパクパクと動かして、前のめりにゆっくりと倒れた。
パンッ。
目を見開いた麻友の耳にもう一度銃声が聞こえた。だが、美香は銃を構えていない。
カタカタ、と震える歯音が隣から聞こえてそちらに顔を向けた。両手に拳銃を握り締めた愛佳が涙を流して立っている。驚いた顔をした美香がニヤリと笑んだ。麻友は慌てて自身のバッグから銃を取り出そうとした。だがそれは叶わない。
「まゆゆ、遅いよ。もう、終わったんだよ」
終わる?なにが?
美香の不敵な笑いに、麻友が初めて吼えた。
パパンッ!
連続で二発撃ち放たれた銃弾は、麻友がバッグから取り出した銃からではなく、ましてや、愛佳の握っている銃からでもなかった。
体に何も異変がないのを不自然に感じた麻友が、美香を見つめる。その後方から何者かが姿を現した。
「ちょっと遅かったみたいだね」