逃げるだけじゃないよ。アレを奪うために隠れるんだよ
「どういうこと?」
玲菜の言葉に一美は首を傾げた。
発信機を取り付けたのは、居場所を知るためであって、奪うためだとは聞いていない。ていうか、奪ってしまえばまた居場所が判らなくなってしまう。
「殺される確立高いと思うんだけど……」
一美が微妙な表情でそう呟いた。玲菜が不敵な笑みを浮かべる。
「大丈夫。夜中にこっそりやるから。それに、移動手段は欲しいしね」
確かに欲しい。だけど、夜中にこっそり忍び寄って、すんなり奪われるような相手でもないのではないだろうか。嬉しそうな顔で受信機のモニタを見ている玲菜の横顔を見つめ、一美は胸がざわついた。
「秋元さんたちをねぇ……そんなに上手くいくもんかな?」
Bの作戦を訊いた麻衣が、ふぅん、と相槌を打ってから腕組みをした。愛佳がそれを真似て眉間にシワを寄せた。
「判らないよ。けど、何もしないよりはマシだと思う」
「だよねぇ……でも、なっちゃんたちははるごん捜してるんでしょ? で、まいたちはキタリエ。当ても無いのに無理だよね? こういうときに携帯とかあれば楽なのに」
ため息をついてから、麻衣は伸びをした。伸ばした手の先に愛佳の顔があって、笑んでみせた。
「でもさ、その話聞いてるだけじゃ、はるごんはもしかしたら敵かもしれないんでしょ? だとしたら危険じゃない?」
「はるごんは敵じゃないよ」
愛佳が怒った口調で麻衣の言葉を遮った。睨み付けるその目は、麻衣の目を貫いている。
「ごめんごめん。でも、万が一ってこともあるしさ、用心に越したことないじゃん」
「大島さんはさっきから否定的すぎますよ」
春香が呆れて上目遣いで見つめた。確かに否定的すぎたかもしれない。少しだけ反省して麻衣は頭をポリポリと掻いて、「ごめん」と謝った。
「いいんです。だって、大島さんの言ってることも正しいですもん」
目を伏せていた麻友が寂しそうな顔でそう返した。その目は既に諦めにも似た色をしていて、麻衣はやるせない気持ちになった。
「ねえ、あれってシンディかな? ぐっさんもいる」
平嶋が身を乗り出して窓から手を振った。それに気づいた一美も同じく手を振る。
手を挙げた一美の頭から何かが噴出した。それが血だということに時間は掛からなかった。
隣の玲菜が咄嗟に地面に頭を抱え込むのを見ながら、平嶋は言葉にならない叫び声を上げた。
茂みから現れたのは、優子と真奈美の二人。優子が玲菜の背中に銃を向ける。
パンッパンッ。二発の銃弾が玲菜の背中に命中した。
小屋に近づいてくる真奈美に向かって、麻衣は銃を突きつけた。真奈美の表情は今にも泣きそうで、自分のやっていることの非道さに気づかせるような気がした。どうしよう? そんな考えが思い浮かぶ中、真奈美の唇が訝しく持ち上がった。
その表情にハッとした瞬間、麻衣は真奈美の右手の拳銃によって頭を撃ち抜かれていた。
「逃げるよ!」
平嶋がバッグを持ち上げると、麻友の手を引いた。窓の中から真奈美が銃を数発撃った。愛佳を庇った春香の背中に一発命中し、反動で仰け反った。
「早く! こっち」
裏口の戸を開け放った平嶋が愛佳に叫んだ。渾身の力で春香の腕を引っ張った愛佳が裏口の戸に向かって歩き出した。
窓の下に座った真奈美が銃に弾を込めながら、優子に頷いて合図を送ると、優子が裏口のほうへ駆けた。
「わたしが囮になるから……みんな逃げて……」
春香が優子の前に立ちはだかる。平嶋に手を引かれた愛佳の目の端に、窓をよじ登っている真奈美の姿が見えた。
優子の銃が春香を捕らえる。
「私は死んでないよ!」
声が聞こえて優子が振り返った。そこには、先ほど背中に銃弾を二発浴びたはずの玲菜の姿があった。
「まさか……防弾チョッキ?」はは、と苦笑いをした優子の手が玲菜の頭に照準を合わせた。
「早く逃げてー!」
玲菜の渾身の叫び声に、いつの間に戻ってきていたのだろうか、愛佳が春香の手を引いて滑るように山を降りた。
銃声が鳴り響く。優子の拳銃からだった。撃たれる前に咄嗟に飛んだ玲菜が茂みの中へ隠れた。
銃弾が空になるまで撃ったあと、優子は舌打ちをして戸を蹴った。