目を覚ますとそこは、どこかの学校の教室のようだった。
ざわついてるメンバーを黙らせるかのように、勢いよく開いた扉。
軍服を着た男が二人、姿勢を正して入ってきた。それに続くように秋元と戸賀崎が入ってきた。
「みなさん、こんばんわ」
シン、とした教室に響いた秋元の声に、誰も反応を見せなかった。
戸賀崎が怒声を上げた。それにより、あちこちから挨拶が聞こえた。
この重苦しい空気に、佐江はいち早く気づいていた。秋元も戸賀崎も普通じゃない。
いや、それは誰にも判ってることだったのかもしれないが、他の皆のほとんどが、番組かなんかの演出だと内心思っているように見えた。
佐江には、そんなことは微塵にも思わなかった。番組収録とは違う何かが始まる。そう感じていた。
「今から、みんなで殺し合いをしてもらう」
その言葉が耳に入った瞬間、血流が速くなったのを感じて、鳥肌が立った。心臓が鼓動を早める。
「先生、そう言う冗談はやめてください」
声のするほうに振り向くと、野呂だった。夏希の肩に凭れかかるように肘を乗せて、笑っていた。
パンッ。銃声がして、野呂がズルリと倒れた。メンバーの悲鳴が教室に響き、野呂を中心に輪が出来た。
体が震えた。いや、震えているのに気づいた。それを武者震いだと勘違いしたことが、佐江を大きく変えてしまった。
ビデオから流れる説明に半分だけ耳を傾ける。ようは皆殺しにすればいいんでしょ。佐江は自分が笑みを浮かべていることに気づいて、それを隠すように下を向いた。

ビデオはいつの間にか終わっており、秋元の指示で順番通り教室を出ていった。
声を殺して泣く者、未だにこれがなんらかのドッキリだと信じている者、様々だった。
佐江の番になり、バッグを受け取る。
「ノンティの分は?」自分でも驚くくらい落ち着いた声で言った。
投げつけられたバッグを二つ抱え、教室を出ると、声が聞こえた。
その声は、辺りを警戒しながら手招きする才加だった。
「才加?なにしてんの?」
佐江は、才加の不安な表情を見て、思わず笑みが零れそうになった。
「殺し合いなんてバカバカしい真似・・・」
この後に及んで何を言い出すんだこいつは。そう思って、佐江は呆れた表情をした。
「あのね才加。ノンティ見た? 死んじゃったんだよ? もう、私達逃げられないよ」
生き残れるのが一人ってこと判ってるんだろうか? もういいやまずは才加から殺そう。生かしとけば一番の敵になりそうだし。
「才加のリュックには何が入ってた?」おお、格好いい、これなんて名前の鉄砲かな?」
銃の扱い方の書いた説明書が入ってたが、今はそれをじっくり読んでる暇なんてない。とりあえず、才加を片付けるのが先だ。
「才加も見てみなよ」てか、早く見ろよ。じれったさでイライラした佐江の顔に、少しだけ眉間に皺が寄っていた。
背中を見せた才加の脇腹にナイフを刺した。その感触は初めて味わう感触だった。
「さ、佐江・・・?」
驚いた顔で、振り返った才加の耳元に、口元で笑みを作って囁いた。
「才加が一番手強そうだから、先に殺っちゃうね」
ゆっくりと倒れる才加を見下ろして、佐江は笑みを作った。
「才加、ごめんね。でも、一番手強そうってのは、嘘じゃないよ」
そう言ってから、佐江は才加のバッグを持ち上げた。



肉を突き刺したときに伝わる感触を噛み締めるように、佐江は右手を見つめた。
このとき、僅かだがまだほんの少し、佐江には迷いがあった。
思いつめたように俯き、右手を何度も握り締めては開いた。残った感触を消し去るかのように。
茂みの奥から物音が聞こえて、佐江は顔を上げた。音のしたほうにそっと近づくと、誰かが寝転がっているのが見えた。
「れいにゃん・・・?」
息を整えるれいなが、バッグから水を取り出していた。佐江はもう一度、自分の右手を見つめた。
今度は、ナイフではなく銃(ブローニング・ハイパワー九ミリ)を握り締めると、生唾を飲み込んだ。
行け!と自分に言い聞かせてから、一歩足を踏み出すと、「誰?」れいなが声を出した。
それのせいで一瞬躊躇い足を止めた。
「もう、いやーっ!」れいながバッグを抱え込んで丸くなったのを見て、背筋に虫が這ったかのようにざわざわとした。
れいなの怯える姿は、佐江の迷いを打ち消してくれた。再び足を前に進めると、れいなの前に立った。
ゆっくりと顔を上げたれいなに、「おはよー」と言ってから微笑んで見せた。
安堵の表情を見せたれいなの前に、拳銃を構えて見せた。
少しだけ驚いた顔を見せたれいなだったが、その表情は瞬く間に消えてしまった。
銃口から吐き出す煙に、ふーと息を吹きかけると、佐江はそこから逃げ出すように歩き出した。
銃で撃ち殺したのは正解だった。ナイフで刺し殺すと、どうしてもその感触が残ってしまい、佐江に躊躇いを与えてしまう。
「次・・・」
そう、次だ。次殺せば今よりもずっと楽になれるはずだ。
胸の辺りから放たれる開放感が、佐江の気持ちを僅かずつ殺人鬼に変えていた。



佐江の耳に近くで銃声が聞こえた。
一瞬だけ、ビクッと体を震わせた佐江だったが、不敵な笑みを浮かべると、その銃声の聞こえた方向へと歩き出した。
木々の隙間から覗いたのは、楽しそうに会話を交わしている佐藤亜美菜と佐伯美香の二人だった。
茂みを掻き分けて二人に近づくその顔は、自然と笑顔になっていた。
「亜美菜、逃げて!」美香と目が合ったとき、自然とマシンガンの引き金を引いていた。
ぱぱぱぱぱぱぱ、と心地よい振動が体に伝わったあと、美香が倒れたのを見て、全身が震えるのがわかった。
逃がすわけないでしょ。心の中でそう呟いてから、胸の辺りから放たれる解放感に浸った。
「美香ちぃ!」
亜美菜の叫びに、美香が「逃げて」と言ったのを佐江は見た。ああ、殺してやりたい。と、そう思った。
もう一度マシンガンを撃ち放つと、美香の頭に穴が空いて、死んだ。
「い、いやーーーーっ!!!」
マシンガンを撃ち終えると、佐江は、美香の銃を拾い上げ、二人にトドメとばかりに弾を2発撃ち放った。
ずっと疑問だった胸の辺りからくる解放感の答えが判った。
これは、気持ちいいだ。
佐江の中に芽生え始めた、殺人鬼は、快楽を見つけてしまった。



奮い立つ身体を抑えるように、佐江は笑った。
「才加、私に会うまで死なないでよね」
くくく、と妖しげに笑むと、マシンガンを右手に持ち直して、足を踏み出した。


恐怖に怯える顔を拝むのは、最高に楽しかった。このときだけは、自分は神のような存在になれる。
命乞いを懇願する者や、泣き叫ぶ者。佐江の気分次第で生かすも殺すも自由なはずだった。
だが、中には抵抗をする者も居た。それには、佐江も少しだけイラ立っていた。
峯岸みなみを殺したあと、渡辺麻友と河西智美を逃がしてしまい、しまいには、大島優子までも逃してしまった。
智美と優子に逃げられたのは、これで二度目のことで、佐江も今度ばかりはイラ立ちで天に向かって吼えた。

仲川遙香と前田敦子もその中の部類に入っていた。
佐江が見たいのは、恐怖に怯える敗者の姿であって、生きる希望を見出して抵抗する者の姿なんかじゃないのだと。

だから、二度も逃げられた智美の愕然とする、その表情を見たとき、佐江は思わず声を出して笑いそうになり、体の心から奮い立つなにかを抑えつけながら、智美を殺した。
その点遙香は、最後まで抵抗しようとしてきた。そのことに関しては、佐江は許せなかった。だから、わざと撃たせて、自分が無敵なのだとアピールして見せた。
結果、佐江の思惑通り、遙香は不思議そうな顔をして、「なんで?」と口にした。そして、そのまま仰向けに倒れて死んだ。

もしも、頭を撃ち抜かれていたら、と考えなかったわけではない。確かに大きなリスクだとは思った。
だが、他の者は頭を撃ち抜いてくることはない、という確信もあった。やつらは、殺されるのも、殺すのも反対してるから。
殺そうと思ってない者が、いきなり頭を狙ってくることは考えにくい。だったら、一番的の大きな体を狙ってくるだろうから。
だから、佐江は後攻を選んだのだ。遙香の驚く顔を見るため。

戸賀崎の放送が終わったとき、佐江は倉庫の扉の前に立っていた。
才加たちがここに入っていくのを遠目から見ていたから。
小野恵令奈と奥真奈美が居たのも納得した。「どおりで、一番のザコキャラが死んでないわけだ」
佐江がそう呟くと、扉のノブが回転した。最初に目が合ったのは真奈美だった。その次に才加。
「中、入って」そう才加が叫んで、中に入ったのと同時に、佐江はマシンガンを撃った。
逃げる才加がなぜか新鮮だった。才加なら向かってくるものだとばかり想像していたから。
やはり、守るものがあると逃げるんだな。そう考え、佐江は笑んでから、そおっと扉を開けて奥へとゆっくりと進んだ。威嚇するようにマシンガンを撃ち鳴らし、積みあがっているダンボールが音を立てて、崩れていった。
廊下へと続く扉を開けたとき、才加の放ったショットガンが佐江の腹部と胸元にヒットした。そのときの衝撃で、あばら骨が数箇所折れた。
それでも尚、佐恵は不気味に笑った。才加の必死な表情が可笑しかったから。
次に才加が顔を出したときは、佐江は才加の体中に銃弾を浴びせた。
勝った。佐江は倒れる才加の姿を唇を持ち上げて笑んでいた。次の瞬間、才加の手にショットガンがないのに気づき、辺りを見回した。
「佐江ちゃん、こっち」恵令奈の声だった。振り向こうとしたとき、左腕に恵令奈の放った弾が当たり、宙に跳ね上がった。
「くそ・・・」ガキが。そう言ってから、マシンガンを隠れた自販機に向かって撃った。

完全に油断していた。子供だと思って舐めてかかった結果だった。佐江は軽く舌打ちをしたあと、今度は冷静を努め、自販機まで歩みを進めた。
あと十数メートルというとこで、二発の銃声が鳴り響き、佐江の鎖骨に命中した。もう一発は防弾チョッキの上だった。
二度目の油断。だが、すぐに勝機はやってきた。
目の前には、弾を使い果たした優子が真剣な表情で銃を構えている。
佐江はゆっくりとマシンガンを優子に向け、引き金を引いた。いや、引いたのだと思った。
ダダダダダダ、と銃声が鳴り響いて、佐江の頭がグラグラと揺れた。一瞬、地震でも起きたのかと錯覚したほどだった。
それもほんの一瞬のことで、佐江は自分が撃たれたのだと気づくこともなく、地面にひれ伏せるように倒れた。
倒れる瞬間、佐江は才加と目が合った気がした。それは本当にそういう気がしただけかもしれないし、もしかしたら本当に目が合ったのかもしれなかった。



何も見えない。何も聴こえない。そんな世界が佐江の周りを囲んでいた。

しばらくその世界を彷徨っていると、小さな光のような点が見え、そこから才加の声が聞こえた。
暖かく、柔らかなその点は、次第に大きくなり、佐江を包み込んだ。
吸い込まれるようにその光の中へと引き込まれたとき、佐江は何も感じなくなった。
見ることも、聞くことも、考えることも。

「佐江、一緒に行くよ」





おわり。