銃声が近くで鳴り響いた。不安な表情で顔を上げた亜樹の数メートル前方で、同じように顔を上げた高橋が耳を澄ます。
太陽が夕日に変わろうとしている方向から聞こえるそれは、高橋のショットガンを持つ手の力を込めるには十分すぎた。
「今度は近いですね……」
返事が返ってこないことには、もう慣れていた。それでも高橋に着いて回ったのは、仲間を想う気持ちがあってこその行為。もうずっと、高橋の背中しか見ていない。亜樹は薄暗くなっていく空をぼんやりと眺めた。
視線を戻したとき、高橋が首だけをこちらに向けているのに気づいた。少しだけ驚いて、何か言おうとしたが、声が出てこなかった。
「確かめてくる……」
それだけつぶやくと、高橋は走り出した。亜樹が手を差し伸ばす。
何を? 何を確かめるというのだろうか? 誰かが死んだことを確かめるのか、それとも誰が殺したのかを確かめるのか。
高橋の背中が見えなくなる前に、亜樹は後を追いかけて走った。
林の出口に一台のバギーカー。そしてそこには才加、佐江、柏木の三人が居た。
傍には顔の半分近くが血で赤く染まってしまっている美樹の死体。高橋は三人の顔を見て呆然とした。
才加の笑った表情に、美樹の死体に目もくれない佐江に柏木。その姿に自分の今までの苦悩がバカらしくさえ思えた気がした。
笑っている才加がフイにこちらを向いた。距離にして200メートル。才加の口元が動いて、佐江がマシンガンを構えた。
「待ってください、高橋さん」
息を荒げて走ってきている亜樹に振り返った。
「来ちゃダメ――」
叫んだ瞬間、背中に流れるように銃弾が当たった。ショットガンを亜樹に手渡すように膝を着き倒れる。
バギーカーがゆっくりと動き出す。それは亜樹のほうへ向かってきていた。
才加がバッグの中を指し示し、それを柏木に開けるように指示した。
「んだよ、そんなのあるならもっと早く出してよ」
「優子から3個だけ譲ってもらってたの、忘れてたわ」ははは、そう笑ってから柏木にそれを投げるように指示した。
「それなら確実だろ?」今度は逃がさないよ。才加が車体が揺れないように先ほどよりスピードを緩めて走らせた。
佐江がマシンガンを鳴らした。才加もハンドルを右手だけで操作し、股の間に置いていたマシンガンを左手で握って構える。
柏木の投げた手榴弾が爆発した。爆風が巻き起こる。だが、それは亜樹の元にはまだほんの少し遠かったらしく、亜樹の髪を揺らして砂煙を巻き上げただけだった。
二つのマシンガンが火を噴く。ショットガンを抱えてから亜樹は雑木林の中へと走った。
才加が「殺せー!」と笑う。手榴弾はもう一度爆発を起こして、煙を巻き上げた。
木の根に足を引っ掛けて派手に転んだ亜樹の目には涙が滲んでいた。
なんで、こんなことになったのだろう……
たった一人を撃ち殺した高橋の苦悩など、あの三人にとってはどうでもいいことなのだろうか。
マシンガンの音が近づいてきたのを聞きながら、亜樹は立ち上がって茂みの中を身を低くして走った。