「戻ってきたのはいいけど、大丈夫かな?」

恵令奈が気を失っている敦子の顔を覗き込みながら、毛布を肩まで掛けてあげた。

「なんか不思議だね。違うチームの4人がこうやって集まってるのって」

そう言った理沙の顔は少しだけ戸惑っていた。遙香が立ち上がってサブマシンガンを手に取った。

「どこいくの?」見上げた恵令奈が不安そうに訊ねる。

「見張り。ここをAのみんなが移動したのって、銃声を聞いた敵が来るかもしれないからなんでしょ? だったら、見張っとかないと」

テントの外に出た遙香が真上に照りつける太陽を見上げて目を細めた。ざわつく木々に嫌な予感がした。それが何なのかは判らなかったが。


集中力と言うものはどうしてこうも持続しないのだろうか。見張りをしていた遙香に眠気が襲い掛かってくる。そういえばここ数日まともに寝ていない。襲い掛かる眠気を払いのけようと、頬っぺたを抓ったり叩いたりと忙しい。

もう、ダメだちょっとだけ代わってもらおうと、テントの中に顔を覗かせようとしたとき、視界に何かが映った。

「今のは……?」

視界に入った部分をもう一度見遣る。誰もいないし、何もない。いや、それは隠れた証拠だった。現に風で揺れる木々や茂みの中に、一つだけその流れに乗っていない部分がある。

「二人とも、そこから出てこないで、あと伏せてて」

そう言うと、遙香はサブマシンガンを構えて立ち上がった。

茂みの中から何者かが突進してくる。それはチームKの増田有華だった。

手に持っている拳銃を遙香目掛けて放った。それを察していたかのように体勢を崩しながら地面に転がった。

「大人しくしてな。騒がれるのは嫌やねん」

「増田さん、どうして……」

有華と遙香の間に間合いが出来る。

「どうしてこんなことをするんですか?」

「生き残るためや。ウチらはみんな同意してるで? 1チームしか残られへんのやろ? だったら――」

有華が拳銃の撃鉄にを引き降ろそうと指を掛けた。遙香が瞬間的に転がっていた拳程の石を掴み取る。

「死ねっ!……!!」

引き金に指が掛かるよりも早く、遙香がアンダースローで放った石が有華の握っていた拳銃を弾き飛ばした。

「くそっ!」有華が拳銃を拾おうとするのを見計らって、サブマシンガンを構えて動きを静止させた。

「増田さん、もう辞めましょう。こんなことしたって……」

「まだ殺したことないやろ?」

「え?」

有華が拳銃を拾うのを辞めて、その場に腰を降ろして遙香を睨み付けると続けた。

「ウチらはなみんな最初に研究生を殺したんや……」

俯き加減にそう告げる有華の目はなんだか寂しげにも見えた。

「もう、完全に死んで動かなくなった研究生の子らの体に、鉛玉を何発も撃ち込むあの感触……誰も殺したことないあんたには一生判らんやろ!?」

今度は遙香が俯く番だった。僅かに下がり始めたマシンガンの銃身が有華の影を差す。

「もう、引き返せへんねん。どうせ最初から死ぬか生きるかの戦いなら、怯えて死ぬのを待つより戦って生き残ったほうがええやろ?」

だらん。遙香のマシンガンが完全に宙ぶらりんになった。有華の言葉に柏木由紀の面影を重ねたからかもしれない。仲間を助けようとして菜絵を殺した柏木と、有華の論理との差異。それは違うように見えて実は同じことなのかもしれない。

有華の手が素早く動く。はっとして顔を上げた遙香の目に、砂が入った。しまった、そう思ったのより先に有華は拳銃を取り上げていた。

「今日のところは、生かしといたる。だけど、次はないで。次会ったときはそこのテントの中のやつもまとめて殺したるからな」

駆けていく音が遠くに聞こえて、茂みを掻き分けていく。ようやく目が慣れた遙香の視界には、僅かに有華の背中が見えて、すぐに消えた。


「はるごん……?」

テントの中で遙香の言いつけどおり伏せていた恵令奈がつぶやくように声を掛ける。

だが、それ以降恵令奈は声を掛けなかった。


怯えて死ぬのを待つより、生き残るために戦ったほうが――――


有華の言葉が何度も繰り返されて、遙香は一言も喋ることなく、膝を抱えたままジッと座っていた。