緊迫した空気が漂う中、遙香は自分を見るみんなの目がいつもと違うことに気づいた。
柏木を追って山の中を彷徨った遙香は、一旦帰還しようと山を降りてきた。テントに戻ると、みんなが驚いた顔をしていたが、それほど気にはならなかった。
「あー、喉渇いた」
そう言って、水をぐいっと飲むと視線を感じ、小首を傾げながら辺りを見回した。
あからさまに視線を逸らすみんなに、「どうかした?」と尋ねたが、誰一人返事をする者はいなかった。
持っていた武器をテーブルに置こうと持ち上げたとき、椅子に座っていた晴香が慌てるように立ち上がって後退りした。その顔は恐怖で引きつっており、遙香はゆっくりと全員を見回した。
「はるごん……」
突然呼ばれて振り向くと、入り口のとこに柏木が立っていた。なるほど、そういうことか。みんなの様子がおかしいのは彼女のせいなのだと悟った。
力なく笑みを作った遙香が、聞こえないようにため息をつくと、テーブルに置いた銃をもう一度持ち上げて、ズボンのベルトに差し込んだ。持ち上げたときのみんなの反応で、確信する。
「私、ここにいるべきじゃないみたいだね」そう言うとバッグを肩に掛けた。
柏木の隣に来たとき、遙香はピタリと足を止めた。そして深く息を吸うと、ゆっくりと吐き出してから口を開いた。
「大丈夫。何も言わないから……」
柏木の心が揺らぐ。視線が泳いで、離れ行く遙香の方を振り返った。
「はるごんっ!」叫んだのは罪悪感からではなく、単純に二度と会えなくなるかもしれない友人の別れを悲しんだからだった。
「ごめ――――」ごめんなさい。柏木がそう言おうとしたとき、遙香が銃を構えた。びっくりして言葉が途切れる。
「死にたくなかったら、何も言わないで」
柏木に向けている銃口が震えている。目は涙で濡れているようにも見えた。
何も言わないで。それは、遙香なりの優しさだった。今、柏木が自分に謝ったり、真実を述べるようなことをすれば、確実に柏木が孤立する。しかも嘘つきのレッテルというおまけを貼られて。
「ねえっ!本当にはるごんが殺したの?」
平嶋が悲しそうに尋ねた。柏木を信じないわけではい。だが、先ほど見た柏木の不適な笑みがどうしても気になっていた。
「そうだよ。だから、私には近づかないほうがいいよ。近づいたら……近づいたら、みんなのこと殺しちゃうかもしれないから」
そこまで言うと、テントの斜めを上に狙いを定めて、一発だけ撃った。
衝撃で後ろに跳ね飛ばされるように後退りした。一瞬驚いた顔をしてから、震える足で林の中へと消えていった。
銃声に驚いた柏木が頭を抱えて伏せたまま、視線を揺らした。
想像していた状況との相違。柏木は、遙香が否定すると思っていた。なんでみんなが余所余所しいのか疑問を抱いたとこで、柏木が嘘の真実を言う。そこで遙香がそれこそが嘘だと否定し、揉めることを予想していた。
なのに、遙香は状況を咄嗟に判断し、悪者を演じきってしまった。
複雑な心境に立たされた柏木に、罪の重さがずしりと圧し掛かり、しばらくその状態で動けなかった。
「ゆきりん、もう大丈夫だよ」
心配した一美が柏木の肩に手を掛けた。それに気づくことなく柏木はどうするか悩んでいた。
そして、答えを出したとき、柏木の中で何かが弾けるようにプツンと音がした。
朝日はすっかり昇っており、淡い光がテントの中に降り注いでいた。