「ねえ、まぁちゃん本当に家に帰れなくなったの? 住所言ってくれれば送るんだけどなぁ・・・」

昨晩は仕方なくマナを泊めることにした麻里子だったが、朝起きて事の重大性に気づいた。これじゃ、私が誘拐したって言われても言い逃れ出来ないと。

マナが困った顔で、自分の背中を見せた。

「わたし、まだ飛ぶことできないから・・・・・・」そう言って、寂しそうに窓ガラス越しに空を見上げた。

「じゃあ、お母さんかお父さんは? 電話くらい持ってるでしょ?」

「お母さんもお父さんも、わたしが生まれたときに死んだんだって・・・」

まずいこと聞いちゃったかな。バツの悪そうな顔で麻里子がソファに腰掛けると、マナがくるりとこちらを向いた。

「わたし、ここに住みたい!人間界、天使界にないもの沢山あるもん」

楽しそうに話すマナに、麻里子は何も言わずに微笑んだ。しばらくの間なら問題ないだろうと、このときはそう思っていた。









「見つからないね」

「まだ捜し始めて2時間だもん、見つかるわけないよ」

「人間て不便だよね、飛べないんだから」

「ねー、もうあたし疲れちゃった」

「あんたたち、いい加減にしなさいよ!1週間以内に見つからなかったらどうなるか忘れた訳じゃないでしょ?」

先ほどから愚痴を言っている由紀と美穂の二人が、みなみに怒られ唇を尖らせた。

明日香の足が止まり、その背中にみなみがぶつかる。

「明日香様、如何なさいました?」

「ミネミャ、この子の名をもう一度教えてくれぬか?」

明日香の差し出した紙には、捜索真っ最中の少女の絵。その絵を見てからみなみが「マナ――ですが。それが何か?」と言った。

「いや―――同じ名なのだな、と思ってな」

「同じ?何と?」

明日香の言葉に反応した美穂が、みなみの間を割って入ってきた。みなみが眉を顰めたが何も言わずその場所を譲った。

「大樹マナのことでしょ?」

後ろを歩く由紀が何やら小さなメモを開いて、そう言った。美穂が振り向く。

「人間界に来る前にその子のことを、少し調べて置いたんだけど」

そう言うと、由紀が一度メモから顔を上げ、視線だけで3人を見渡した。それから口を開く。

「13年前に、天使の捨て子が大樹の側で拾われた事件は覚えてる?」

「あー、そういえばそんなことあったね。天使界で捨て子なんて初めてのことだって、大騒ぎになったよね?」

「この子はあの時の子なんだって」

由紀が得意気な顔で明日香の持っている似顔絵を取り上げて、ひらひらと掲げて見せた。

「でも、だからなに?」

みなみが小首を傾げ、眉間にシワを寄せた。

「うん。だからさ、大樹マナの側で拾われた子だから、マナって名前なんだって」

どうだ、とでも言うように由紀が胸を張る。明日香が軽くため息を付くのがわかった。みなみがそれに習って、正面を向く。

「だから、なに?」

「え・・・?」

美穂だけが由紀のほうを向き、2人の代わりに疑問を口にした。

「長々と話した割りには内容がないね」

わざとらしく大きくため息をついた美穂が、明日香たちのほうへ駆けて行った。

「え、ええ? なんで?」

思ってた反応との違いに、その場で地団駄を踏んで、絶叫した。民家から「うるさいぞ!」と言う声が聞こえてから、由紀の側をタクシーが通り過ぎていった。