「佳代ちゃん、そっちじゃないよ」
地図とにらめっこしていた薫が、別方向に歩みを進める佳代に向かって言った。
「いいんだよ、こっちで」佳代が振り向くことなく応える。月明かりの下、黒々とした茂みが広がり、その奥に風に揺れる木々が、そしてその向こうには小さな光が二つ見えた。
「かおりん、懐中電灯消して」
佳代が早口で言う。訳が判らないと言った顔をした薫が佳代の背中を見つめていた。
「早く、誰か来てる」
その言葉で慌てて明かりを消すと、身を隠すように佳代の背中にピタリとくっついた。
「誰、かな?」
「さあ?」
足音が近づいてくる。それに従い話し声が僅かに耳に届いた。
「かおりん、武器の用意しといてよ」佳代が自身の武器(デザートイーグル)の引き金に指を掛けた。
「え、殺しちゃう―――」思わず口にした「殺す」の言葉に驚いて口に手を当てた。佳代が首だけを振り向け、「撃ちゃあしないさ」と言った。それは薫を安心させる為の嘘だった。殺すつもりは毛頭なかったが、相手の出方次第ではこの握り締めた銃を撃とうと考えていた。
茂みを掻分ける音が近くで聞こえた。服の背中を薫が強く掴む。その手から僅かに伝わる震えに、佳代は大丈夫と目配せを送ろうと振り向くと、その横に誰かが立っていた。
心臓が跳ね上がりそうになった。ゆっくりと顔を上げると、そこには篠田麻里子が立っていた。
「なにやってんの? 二人とも」
飄々とした顔でそう言った麻里子が、後ろを振り向いて「ノンティとかおりんだわ」と言った。
その後ろで申し訳なさそうに現れた亜樹が、佳代に向かってお辞儀をした。釣られて佳代もお辞儀をする。
「Kってこの近くに基地あんの?」
そのやり取りに一切突っ込みを入れなかった麻里子が、佳代の目の前に腰を降ろし自身のマシンガンを見せ付けるように持ち上げた。それに少しだけ驚きを見せた佳代が、平静を保ったまま「いや・・・」と答えた。
「ふうん。あのさ、私達殺し合いなんてする気ないんだ」
麻里子が佳代の構えている銃にチラっと視線を送った。慌てて銃を降ろした佳代が恥ずかしそうに、誤魔化すように笑った。
「それって、二人だけ?」
麻里子の後方に立つ亜樹をチラッと見た。それに対して麻里子はニヤッと笑ってみせた。
「その言い方からして、Kは割れてるみたいだね?」
それで、佳代は一瞬だけ驚いた顔をして苦笑いを浮かべた。
「まあね」
佳代はそれから、呆れたように言った。
「約4名がどうも楽しんじゃっててね」
「まだはっきりと決まったわけじゃないけど――」
薫が唇を震わせて言った。最後のほうは自信なさそうに小さな声になっていた。
「あのう・・・」今まで黙っていた亜樹が口を開く。「Aの本拠地来ませんか?」
麻里子がびっくりして、口を開けたまま亜樹を見上げた。
「少しでも仲間は多いほうがいいし」そう続けてから、麻里子から目を逸らすと、俯いて黙ってしまった。