「学校での集団生活なんて、社会に出たら無意味だってよくわかった」

戸島花がテーブルにコーヒーカップを置くとため息をついた。お昼の混雑したファミレス、ウェイトレスが横をすり抜けるように通り過ぎていった。

「なにかあった?」

中西里菜は耳だけをこちらに向け、だが視線は窓の外へと向けて尋ねる。

「学校での集団生活ってさ、いずれ社会に出る子供達にコミュニケーションを学ばせるための場だとか言うじゃん? でもさ、職場と学校って環境違いすぎると思うんだよね?」

単に私が一匹狼で、孤独を愛していたからだけかもしれないけど。里菜だってそんな私の性格を承知の上で付き合ってくれている。

「だって、先生に敬語使ってた? いや、まあそれなりに使うときはあったけど、でも友達感覚で接することのほうが多いよね? それにクラスメイトだってみんな同じ歳の子たちばっかりなんだよ。それに比べて会社ってさあ・・・」

里菜が視線を合わせてふふっと笑った。いつも私が愚痴を言うときは決まってこうして笑って聞いてくれる。

「比べてどうするの?」

二度目のため息をついた私に、里菜が笑みを浮かべて続ける。

「学校は学校、会社は会社。そうでしょ?」

「そうだけど―――」なんだかなぁ・・・。上司のご機嫌を取って、面倒くさい仕事は文句を言わずに引き受ける。上司より早く出社して、先輩が帰るまで残業。しかも、休日出勤なんて当たり前だし、これじゃあ―――

「そっか」部活動みたいなもんなのか。一人で勝手に納得した。

「でも、部活は自分が好きでやってることだから我慢できるんだろうけど・・・」

思ったことを途中から口に出し、はっ、と口を押さえた。里菜が口元を緩ませ「会社だって花ちゃんが好きで選んだんじゃないの?」と言った。

見透かされていた。なんか気恥ずかしくて耳が赤くなるのを感じる。

照れ隠しに窓の外に視線を向けた。信号待ちの2人のサラリーマンがなにやら楽しそうに話をしている。その近くで女子高生が携帯を弄っていた。

あの子もあと数年もしたらこんな風に友達に愚痴ったりするのだろうか。いや、もしかしたら里菜みたいに愚痴られるほうかもしれない。

ほぉ、っと吐いた息が塊になってテーブルの上に落ちた気がした。それは塊のままテーブルの上に留まって、次の塊を待っているようだった。








「最近よく休むね」

「ん、なんかちょっとね」

「辞めちゃうの?」

「どうだろう?」

「その時は言ってよね。私もこんな会社辞めちゃうから」

同僚の佐藤由加理がそう言うと、椅子をくるりと回して元の位置に戻った。

そんなに辞めたきゃ一人で辞めればいいのに。なんでこうも人と合わせたがるんだろう。自分の人生を私になんか任せちゃっていいのかね。

「ねえ、由香理ちゃん、あなたは会社を辞めたあとのことは考えてるの?」

「え?なんか言った?」

再びこちらを向いた由香理が、首を傾げて「ん?」と言った。

「ううん、今日も可愛いね、って言ったんだよ」

「止めてよそういうの」

なんだニヤケちゃって、結局嬉しいんじゃん。

「あー、なんかいいこと起きないかなー」

んー、と伸びをしてから息を吐いた。それに気づいた部長が激を飛ばすのは差ほど時間はいらなかった。







『それで、辞めちゃうの?』

「んー、辞めるとかそういうんじゃないんだよね」

23時を少しだけ過ぎたのを確認してから、携帯を左手に持ち替えた。電話越しに里菜が咳払いをしたのが聴こえた。

「なんのために働いてるんだろう?って」

『生きる為じゃない?』

「それだったら、別に農作業とかでもよくない?」

『ふむ・・・』

しばらくの沈黙の中、私は点いていないテレビをジッと見つめていた。

電話の向こうから里菜の呼吸音が聞こえて心地いい。

「やっぱ、辞めたほうがいいのかなぁ」

おはよう、と挨拶をするような気軽さで出た言葉だった。里菜が唾を飲んだのが聴こえた。

『ねえ、私のために働いてみたら?』

「は?」

突然言われた言葉に、私は間の抜けた顔をしてしまった。電話越しでなければ笑われていたかもしれない。

『少しは意味のあることになるんじゃない? 働くってことがさ』

「意味判んない」

なんのために働いてるんだろう?って言ったのはそっちだろー!里菜が冗談っぽく怒る。その声がなんかこそばゆくて、少しだけ携帯を耳から離した。

意味判んないけど、なぜか救われた気がした。まあ、そういうのも取りあえずはアリかもしれない。

何かを辞めるのなんて結局は自分次第だろうけど、キッカケがなかったら中々辞めにくい、里菜はそれが判って、そのキッカケを作ってくれないんじゃないだろうか。

由香理の言葉が頭の中を過ぎった――――そうか、由香理も結局同じなんだな。

そう思ったら、なぜか自然と笑みが零れた。


いつまで続くかわからないけど、今はこの電話の相手のために社会人を全うしようと思う。

なぜか悔しくなって、小さな声で「ばーか」と言ってみた。里菜がなにやら叫んでいる。どうやら聴こえてしまったようだ。










続きたいけど続かない。




---------切り取り---------



これ、去年の11月頃、ちょうどBRが完結するかしないか辺りに適当に書いたものです(・Θ・;)

花ちゃん卒業に合わせて書いてたやつだったんですけど、かなりネガティブな内容になったため、途中でボツになった小説です。

今回はその書きかけの小説を披露してみました。ごめんなさい(。-人-。)

いつか花ちゃん主演でちゃんとした小説書きます。


話は変わりますが、BRⅡはとうとう犠牲者出しちゃいましたね。しかもチーム内で。

これ、もしかしたらKでもAでも同じこと起こりそうじゃない?って書き終わったあと思いましたw

前作のように佐江の圧倒的な強さは必要ないとは思うんですが、それにはみんなが殺し合いに参加しないといつまで立っても進まないんですよね。

やっぱりチーム戦は難しいです^^;