夜の山道は暗い。月の光が闇の深さをより色濃く際立たせている。
その闇の中に一筋の強い光が灯っていた。その光は辺りを左右に照らすと、ふいに後方を映し出した。
急に明るくなったせいか、眩い光に思わず片目を瞑り、顔を逸らした。
「尾行だなんて趣味悪すぎますよ」
懐中電灯の明かりを消すと、それをポケットに差し入れる。
「バレてないとでも思ったんですか? 柏木さん」
菜絵が銃のグリップを握りしめ、スッと前へ向けた。目を細めた柏木の口元がニッと持ち上がる。
それを見て菜絵は奇妙だと思った。柏木の肩に担がれてるのは、どう見ても先ほどテントで自分が面白半分で振り回していたマシンガンなのだ。武器を所持しているのにそれを構えようとすらしない。
自然と喉がゴクリと鳴った。
「あんたは癌だ」唐突に喋りだした。
「は・・・? 急に何言い出すんですか?」
柏木が少しずつだが歩み寄ってきているのが判った。威嚇するように1発だけ引き金を引いた。
衝撃で後ろへ2歩下がる。初めての感覚に体が震えたがそれはとても心地のよいものだった。
銃口から出る煙を見て、嬉しそうに笑うと、今度は柏木の頭に狙いを定めた。
――――2発目の銃弾の先には柏木の姿は無かった。引き金を引く一瞬に姿を消したのだ。
慌てて柏木の姿を探す菜絵の左脇腹に激痛が走った。
「っつ――」
銃弾を放つ瞬間、どうしても衝撃で体がブレる。その瞬間を狙って菜絵の左側へと飛び込んだのだろう。
「・・・くそ」右手の銃を持ち上げて引き金に指を掛けたとき、菜絵の頭にゴツリと硬い物が当たる感触がした。
視線だけでその物体を見上げる。マシンガンだった。
「最初からこれ持っていけばよかったのに」
柏木がわざと笑みを作る。菜絵の右手が重力に逆らうことなくぶらんと垂れ下がった。
「最後に質問させてください」
柏木が眉を持ち上げて「なに?」と聞いた。
「柏木さんは、殺し合い反対なんじゃないんですか?」
視線を柏木に向け、唇を持ち上げて笑んだ。
「反対だよ」マシンガンを持つ手を変えて続けた。「でも、癌は排除しなくちゃね」
それだけを聞くと菜絵はスッと目を閉じた。そして最後に笑んでからこう言った。
「私の魂は柏木さんの中で生き続けます―――だから、きっと止まりませんよ」
なにが?そう聞く前に柏木は引き金を引いていた。数十発の弾丸が菜絵の頭を貫き、顔の原型を失くした。
「あんたが生きてたらもっと犠牲者が出るんだ」これで良かったんだ。そう言い聞かせて銃を拾い上げる。
マシンガンを肩に担ぎ直すと柏木は踵を返した。
視線を向けた先に人影が見えて、一瞬驚いた。目を凝らしてその人物を見る。
「ゆき、りん・・・?」
驚いた表情でそれだけ言った人物は、口を開けたまま柏木を見たあと、菜絵の死体に視線を送った。
後ろの菜絵を振り返って、柏木が慌てて繕う。
「はるごん、これは違うの! これは全部コイツが・・・」
遙香の視線が柏木を映した。ただ、向けられた言葉は何一つ耳に入ってこなかった。
「―――お願い、信じてっ!」
最後の言葉だけが遙香に届いた。だが、柏木はそこまで言い終わると、遙香とは反対方向へと走り出した。
追いかけようと手を差し伸ばしたつもりだったが、体は微塵にも動いてはいなかった。
「・・・・・ゆきりん」