愛佳に駆け寄ったときには、すでに愛佳は息をしていなかった。
優子は唇を噛み締め、涙を流した。
「ごめんね・・・」そっと愛佳の頭を抱きしめてから、優しく撫でてあげた。「1人で寂しかったよね」
溢れ出す涙が、愛佳の頭の上にポタポタと落ちては、流れた。
「もう、いやだ」呟いたのは恵令奈だった。「誰かが死ぬのなんて、もう見たくない」背中を後ろに向け、両膝に顔を埋めて頭を左右にぶんぶんと振っていた。
「首輪―――外そうか?」
そんな恵令奈に、そう問いかけたのは、この呪縛から早く開放させてあげたかったから。
愛佳の頭をそっと下ろすと、優子がポケットから2枚の紙を取り出した。
「これの通りに解除すれば、1人だけ助かるんだって」
「1人?」
真奈美が驚いて顔を上げた。その顔は、すぐに寂しそうに瞳だけ俯けた。
慌てるように優子が、愛佳の自説と、自分の説を説明した。それは、淡々としていて、時折見せるその表情は、なぜか嬉しそうにも、悲しそうにも見えた。

「―――どうする?」
全ての説明を終えた優子が、2人を見比べながら尋ねる。
「全員助かるか、全員死ぬか、1人だけ助かるか―――」3つに1つ。そう言ってから、優子はその解除方法の書いてある紙を、見つめた。
「違うよ」言ったのは、恵令奈だった。「3つじゃなくて、2つだよ」顔を上げて、優子のほうに振り返った。
「全員助かるか、全員死ぬか、だよ」
優子に手を差し伸ばし、紙を受け取ると、「コリンの言うとおり、やってみよう」と言った。
優子が軽く笑んでから、真奈美に「それでいい?」と訊いた。
黙ったまま頷いた真奈美が、そのまま顔を埋めたのを見て、泣いているのだと理解した。
「じゃあ、同時に外さなきゃいけないから、私の言う手順どおりやって」
そう言うと、二人は頷いた。




『―――私の言う手順どおりやって』
学校の教室のソファの上で、秋元がカップに口を付けた。
「どうします? 3人の首輪爆破させますか?」
戸賀崎が椅子をクルッと回して、秋元を見た。軽く咳払いをしたあと、「いや、しなくていい」と呟いた。
「でも、それだと・・・」
モニタに映る、3人の波打つ心拍数の画面が、ピーっと真っ直ぐになった。
「大島優子、奥真奈美、小野恵令奈、首輪解除しました」
軍服を着た男が、叫んだ。
秋元が、もう一度、カップに口を付けると、重たい腰を持ち上げるように、立ち上がった。
「どこへ行かれるんですか?」
慌てた戸賀崎が、後を追うように秋元に着いていく。それには何も応えず、秋元は教室を出て行った。




東の空が薄紫色に染まり、太陽が顔を出していた。雨はすっかり上がっており、その空を見上げたまま、秋元は目を閉じた。
グランドに立つ秋元が、気配を感じて顔を正面に向けたとき、優子、恵令奈、真奈美の3人が姿を現した。
その手には、それぞれマシンガン、ウージー、ショットガンを持っていた。
「何か言いたそうな顔してるな?」
優子を見つめるその表情は終始無表情で、その言葉は淡々としていた。
「なんで―――」優子が歯を剥けて吼えた。「なんで、こんなことをした!」
怒りの全てをぶつけるように、マシンガンを構えて銃口を秋元に向けた。
「こんな――こんなクソゲームのために、みんな・・・」
優子が涙を流し、そして左手でその涙を拭った。
「宮澤は楽しそうに殺してただろ? 他に戸島や小嶋、あと、篠田も」銃口を向けられてるはずの秋元が、余裕な表情で答えた。
「お前だって殺してるじゃないか。小野、お前もな」
言われて、恵令奈が目線を逸らして、俯いた。
「うるさい! こんなゲームがなかったら、誰も死なずに済んだはずなんだ!お前らの考えてることは異常だ!」
もう一度、今度は先ほどより大きな声で吼えた。
「最初に説明したがな、このゲームの優勝者は、芸能界での将来が約束されてるんだ。わかるか? このゲームにはいくつものスポンサーがちゃんと付いてるんだよ」
優子が驚いた顔をした。秋元の言ってることが理解できなかった。
「日本は平和すぎなんだよ」秋元が東の空を見上げながら、呟いた。
「暇を持て余した、連中が望んだことだ。殺し合いをさせて、生き残ったやつに将来を約束しようってな。それで選ばれたのがお前らだったってだけだ」
「そんな―――そんなの警察に―――」優子が喋りだすのを遮るように、秋元が続けた。
「これには、政府の連中も絡んでるんだ。考えてみろ、あいつらが一番の暇人だぞ。誰が生き残るか掛けて遊んでやがるんだからな。そういや、大島、お前は秋元才加、宮澤、篠田に続いて、4番人気らしいぞ」
優子は歯を食いしばっているようだった。
「だが――このゲームには優勝者はいなかったようだ」そう言って、秋元が右手を内ポケットに入れた。
殺される。そう思った優子は、瞬時にマシンガンの引き金を引いていた。
ぱぱぱぱぱぱ、と言う音とともに、秋元の体が仰け反った。
学校の中から、軍服の男達と戸賀崎が出てきた。軍服の男達がライフルを構えて、3人に銃口を向けた。
「待て待て待て。こいつらはもう死んでるんだ。撃つんじゃない」
倒れそうになりながら、秋元が右手を挙げて言った。
「なあ、そうだろ? 首輪の反応は途絶えたもんなぁ・・・死んでる証拠だよ」秋元がそう言うと、先ほど内ポケットに突っ込んだ手を出して、優子に差し出した。
「船の鍵だ。それとな、この地図の場所へ行け。政府が絡んでる以上、お前らはもう、日本にはいられないんだよ。そこに行けば国外脱出に協力してくれる者がいる・・・」
血で赤く染まった紙と地図を、優子に手渡した後、秋元は後ろを向いた。そして、ゆっくりと歩き出した。
戸賀崎が秋元の元へと駆け寄ると、それにもたれかかるように、秋元は再び歩き出した。
「あいつらには手を出すなよ・・・」
軍服の男達に、そう告げると、戻れ、と言うように、手を挙げて学校の中を指し示した。
優子は受け取った鍵と地図を見て、秋元の背中を見送った。