走っていた。才加を捜すために優子は必死に走っていた。
ふくらはぎの傷のことなど完全に忘れていて、一刻も早く捜し出したかった。
戸賀先の放送が流れて、遙香と敦子の死を知ったとき、走る足を止めた。
そして、その数分後に、聞き覚えのあるマシンガンの銃声が轟いた。その音はそれほど遠くなく、優子の体を奮い立たせた。
気づくと、その銃声の聞こえる方向へと走り出していた。
はっ、はっ、はっ、と呼吸を一定に保ち、銃のグリップをしっかりと握って考えた。
敦子と遙香が死んだ今、残ってるのは才加と恵令奈、あと真奈美の3人だけだ。その内の1人が今殺されてるかもしれない。
「死なないでよ」
ズボンの前に挿していたワルサーTPHを取ってから、右腕で、額の汗をぬぐった。
マシンガンとは違う銃声が鳴った。それは、恵令奈の放ったショットガンだったが、優子は何が起こってるのますます困惑し始めていた。
銃声が1発響いたあと、お馴染みのマシンガンの音が聞こえた。
山を降りる形で、倉庫が見え始め、優子の視界にまず映ったのは、佐江の姿だった。その右手にはマシンガンを持っており、左腕を負傷していた。
その左後方に髪の長い女性が倒れているのが見えた。それが才加だと気づくのに、差ほど時間は掛からなかった。
そして、佐江の前方にある粗大ごみの一角、倒れた自販機の後ろには、恵令奈と真奈美の二人が居た。
恵令奈が抱えているショットガンを見た優子は、哀しい顔をした。
なんなんだろうこの気持ち。胸が締め付けられるような、体の中から何かがたぎり巡ってくるようなこの感じ。
寂しいとか、哀しいとか、そんな感情ではなく、もっと別の言葉。
銃を両手に構えて、優子が跳んだ。
そこで、やっと気づいた。この気持ちは、『せつない』だ。
締め付けられる胸を抑えることが出来ず、代わりに、胸いっぱいに息を吸った。
スローモーションのように、ゆっくりと時間が流れた。構えた銃の照準を、しっかりと佐江に合わせてから、同時にそれを放った。
銃声に気づいた佐江が、振り返ったおかげで、鎖骨と腹部にそれぞれ1発ずつ当たった。
鎖骨のほうからは血が流れていたが、腹部のほうは、なにも感じていないように見えた。
「コリン!」
恵令奈が叫ぶ。立ち上がろうとしたとき、「ダメ」と言う声とともに、真奈美が袖を引っ張った。ぱぱぱぱぱぱ、と鳴ったあと、自販機から火花が散り、今度はその銃口を優子に向けた。
「えれぴょん、撃って」今度は優子が叫ぶ。「佐江に撃たせちゃだめ」そう言うと、木の陰に隠れて、優子がワルサーTPHを弾がなくなるまで撃った。
佐江が焼却炉の影に隠れて、マシンガンを撃つと、優子の隠れている木の枝が粉砕した。
恵令奈が自販機から顔を出すと、今度は自販機に向けてマシンガンを構えるが、恵令奈のほうが、わずかに早く、ショットガンが焼却炉に当たって、煙突部が崩れ落ちた。
「このままじゃ、埒が明かない・・・」
優子がダブルデリンジャーに持ち替えて、焼却炉に向かって、走り出した。
佐江が素早く反応して、マシンガンを優子に向けて、放った。寸でのとこで転がり、左腕に1発だけ銃弾が掠っただけで済んだ。


優子がダブルデリンジャーを佐江に向けて撃った。それはわずかに左側に逸れてしまい、絶望感に襲われた。
2発目を撃とうにも、ダブルデリンジャーは、1発撃ったあと、一度銃身を起こして回転させなければ2発目は撃てない仕組みになっている。
弾の入っていないCz75を構えることで、駆け引きをしようとしたが、それも空しく、佐江がマシンガンの銃口を優子に向けた。
終わった。そう思った。目を閉じて、息を呑んだ。ダダダダダダ、と音がして、死んだ。と、思っていた。
目を開けると、死んではいなかった。
月明かりに照らせれた佐江の頭から、血が溢れ出していた。右手に持っていたマシンガンをポトリと落とすと、そのまま倒れた。
優子は、驚いて視線を泳がせた。佐江の左後方で、才加が倒れたままウージーを構えていた。
恵令奈が最初に撃ったショットガンのおかげで、佐江の左手に持ってたウージーは、才加の側へと転がっていたのだ。
才加が、ぜえ、ぜえ、と息を荒げて、構えたウージーを腕と一緒におとした。
「才加」
優子が駆け寄った。苦しそうに息をしている才加の口元がわずかに動いて、「さ、佐江・・・一緒に、逝くよ」と言った。
「才加っ! 死んじゃダメだよ。これ、ほら、これに何が書いてあると思う?」
優子がポケットから濡れてクシャクシャになった紙を取り出して、才加に見せた。
「これにね、この首輪の外し方が書いてあるんだよ! だから―――」
「優子・・・」薄く開けた目を優子に向け、呟いた。「ありがと」そう言って、才加は、瞳を閉じた。
恵令奈と真奈美が駆け寄ってきたときには、もう、息をしていなかった。