「ちょっと早かったかな?」
倉庫の一角の、パレットの上に腰を降ろした真奈美が、バッグの中から取り出したチョコレートを半分に割りながら、言った。
その半分を受け取った恵令奈が、「でも、あと10分くらいだよ?」と言い、半分のチョコをさらに半分に割って、それを才加に「はい」と差し出した。
手のひらを前に差し出して、いらないと意思表示した才加が、窓の外を覗き込んで、ため息をついた。
「無事だといいんだけど」
しばらく沈黙が続き、恵令奈は、窓の外を眺めている才加をジッと見つめた。
「ねえ―――」真奈美が口を開いた。「あたしたち、これからどうするの?」
才加が視線を真奈美に向けた。それから、少しだけ考えて「大丈夫、心配しないで」と言った。
「大丈夫だってさ。良かったね、まぁちゃん」
「――うん」
横に腰掛けていた恵令奈が、真奈美の顔を覗きこんでから笑った。それから、嬉しそうに真奈美のチョコを一欠けらだけ摘み取った。
少しだけ頬を膨らませた真奈美だったが、恵令奈の悪戯っぽい笑顔に、思わず笑みをこぼしてしまった。
そんな二人のやりとりを、横目で見た才加が、口元だけで笑って、また、視線を窓の外に向けた。
そのとき、放送を知らせる音が辺りに鳴り響いて、才加は思わず天井を見上げた。
『はーい、こんばんわあ』
放送の度に上がっている戸賀崎のテンションに、才加は毎度ながら舌打ちをした。
『恒例の行くぞ~。まずはあ』
才加は耳を澄ました。残り人数は少なくっているが、佐江が死んでるとは考えにくい。だが、死を伝えるということは、誰かしら死んだと言う事だろう。
『仲川遙香と前田敦子の二人でーす』
才加の目が大きく見開かれた。
恵令奈と真奈美が顔を見合わせていた。二人の体は震えていて、涙目になっていた。
『これで残り6人になりましたー。秋元才加。大島優子。多田愛佳。奥真奈美。小野恵令奈。お前達すごいなあ。特に、多田。奥。小野。お前らがここまで残るなんて思ってなかったぞお。それじゃ、禁止エリアを発表しまーす。まずはあ』
才加が地図を広げメモを取った。
『1時からI-6。いいかあI-6だぞお』
I-6はこの倉庫のあるエリアだった。
『次、3時からF-8。そして5時からB-4だ。わかったかあ? もう言わないからな』
恵令奈と真奈美が、才加のメモを書き写すと、地図を折りたたんで、バッグの中へと閉まった。
『じゃあ、残り6人で仲良く殺しあうんだぞお。またなー』
放送が終わってから、すぐに才加が立ち上がった。
「出発しよう」
「え?」
恵令奈が聞き返すと、「はるごんたちはもうここには来ない。それに、ここは禁止エリアになる」そう言って、才加がショットガンとバッグを担いだ。
錆びてボロボロになった扉を開けると、キィ、とわずかに音がした。外は相変わらずの雨だったが、雨雲から少しだけ覗く月が、もうすぐ晴れることを告げていた。
とりあえず、このエリアから出ようと、方向を確認した才加が足を踏み出す。
「あ・・・」
真奈美が目を大きく見開いて、動きを止めた。
「中、入って!」
才加が叫んだ。勢いよく閉めた扉が、バタンと鳴ったのと同時にぱぱぱぱぱぱ、と音が響いた。


才加が扉の鍵を回して閉めると、沢山の箱がいくつも積み上げられている方を顎で指し示した。
その奥には、シャッターがあり、隣に小さな扉があった。そこは事務所へと繋がる通路となっており、さらに奥を右に曲がると、外へと繋がる扉があった。
走って、シャッターの隣の扉を抜けた。
佐江が先ほど鍵をかけた扉を無理やりこじ開けて、入ってきていた。
辺りをぐるりと見渡すと、マシンガンを扇状にぱぱぱぱぱぱ、と撃った。
積み上げられた箱に穴が空いて、ドミノ倒しのように倒れた。
シャッターの隣の扉を見つけた佐江が、ニヤリと笑った。
ゆっくりと近づくと、その扉の窓の部分のガラス目掛けて、銃を撃ち放ち、ノブに手を掛けた。
キィ、と扉が開いた瞬間、ショットガンの弾が佐江の胸に当たり、一瞬だけよろめいてから、マシンガンを構えた。そして、撃った。
通路の折れ曲がったところにいた才加が、頭を引っ込めて、外に向かって走った。
外には、恵令奈と真奈美が待っていた。扉から出てきた才加の表情を見て、恵令奈が心配そうな目で見つめた。
「なんで・・・? 確かに当たったのに・・・」
眉間にシワを寄せた才加が、驚いた顔で考えた。
「どうしたの?」
才加の挙動に何かを察した真奈美が、不安顔で尋ねた。
「ううん、なんでもないよ。ちょっとしくじったみたい。さあ、逃げるよ」そう言ってから、すぐに言葉を変えた。「いや、隠れよう」と。
佐江の足の速さは知っている。真奈美や恵令奈が、その足から逃げ切れるとは到底思えなかった。
倉庫を、右に回りこむ形で移動した。そこには、焼却炉と積み上げられたパレットの山。そして、粗大ごみらしきものが、いくつも散らばっていた。
パレットの後ろまで走った3人が、その隙間から様子を伺った。
大きく深呼吸をした才加が、真剣な眼差しで恵令奈と真奈美を見た。そして、口を開いた。
「2人とも聞いて。佐江のこと見たでしょ?」
恵令奈と真奈美がコクリと頷いた。その目は今にも泣きそうに潤んでいた。
「あれは、私達が知ってる佐江じゃない。悪魔か何かに取り憑かれてるんだ」
自分に言い聞かせるような、そんな言い方だった。才加の目が少しだけ濡れていた。
「だから―――だから、私は、佐江を・・・元の佐江を取り戻したい」
ショットガンを持つ手が、グッと力が入って、赤く染まっていた。恵令奈が「うん」とでも言うかのように、首を縦に振った。
「だから、2人は逃げて」
「嫌だ」言ったのは、真奈美だった。口を開きかけた恵令奈が驚いて、真奈美を見た。
「あたしも、佐江ちゃん助けたい」
真奈美の瞳から、涙が零れた。――助けたい――それがなにを意味するのか、真奈美はちゃんと理解して言った。
恵令奈が才加の顔を見て、頷いた。2人を交互に見てから、才加は根負けして「わかった」と言った。
「じゃあ、今から私が言うとおりに行動して―――」