戸賀崎の放送が、戸島花と平嶋夏海の死を告げてから、2時間余りが過ぎていた。
「時間ないな・・・」
才加が時計を見てから、軽く舌打ちをした。遙香たちとの合流時間まで4時間を切っていた。
現在の位置、島の北東の浜辺付近から、合流地点の倉庫までは2時間ほどで着く距離だったが、真奈美と恵令奈の体力を考慮して、合流地点に向かうことにした。
「ねえ」恵令奈が才加の背中越しに顔を覗きこんだ。「もう終わる?」訊いてから慌てるように口を閉ざした。それは、才加が不思議そうな顔で恵令奈の目を見たからだった。
それを見た才加の口が一瞬だけ開いてから、「あ」と口の中で言った。
恵令奈は恐らく、このゲームを一刻も早く終わらせたいのではないのだろうか。それを思わず才加に訊いてしまい、慌てて口を噤んだのだろう。
「もうすぐ終わるよ」
誰に言うわけでもなしに、才加は真っ直ぐ歩みを進めた。
小降りになった雨が、リズミカルに音を奏でていた。



どれくらい気を失っていたのだろうか、目を覚ますと辺りは真っ暗になっていた。
背中に重みを感じ、愛佳の存在を思い出して慌てて体を起こした。
「らぶたん?」
悪夢でも見ているかのように、愛佳は苦しそうに呼吸をして眠っていた。
「・・・よかったぁ」無事ではなさそうだが、とりあえず背中に背負ってたものが死体ではなかったことに、ほっと胸を撫で下ろした。
愛佳を抱きかかえると、目の前の集落に向けて足を運んだ。
1軒の民家の畳の上に愛佳を寝かすと、シャツを巻くって、応急処置をしていた背中の銃弾痕の布を剥がした。
「んっ・・・んん・・・」
愛佳の眉間にシワが寄ったのが判った。それでも起きることのない愛佳の背中に、床の間のタンスの中にあった、救急箱の消毒液を塗ったてから、新しい布をあてがった。
それが正しい応急処置の方法なのか判らなかったが、今優子が出来る精一杯の対処法だった。
自分の傷の手当に入ったとき、ポケットの中の説明書の存在を思い出してから、「あ」と口を開けた。
急いで取り出したそれは、雨で濡れてはいたものの、破れて読めなかったり、インクが滲んでいたりすることはなかった。
2枚の紙をもう一度、いや、何度も、暗記するように読み返した。
首輪に触れる。今、ここで愛佳と自分の首輪を外せば、全てが終わるかもしれない。そう脳裏を過ぎった。
文字に落とした視線を、愛佳の顔に移動させてから、優子は目を閉じた。
「らぶたん、ごめん。もうちょっとだけ待ってて」
目を見開いた優子が、愛佳の頬に触れる。
「才加たち捜したら、必ず戻ってくるから」そう言う優子の口は、わずかに震えていた。
357マグナッムを枕元に起き、ピコピコハンマーを右手に握らせてから、胸の前に置いた。
「だから、もうちょっとだけ、我慢して待ってて」
立ち上がり、バッグを愛佳の側に置くと、ズボンの前にダブルデリンジャーとワルサーTPHを差し込んだ。そして、右手にはCz75を握って、部屋をそっと飛び出した。