診療所から東に向かった才加たちの場所から南西側に、黒煙が上がってるのが見えていた。
深夜0時に学校の東にある倉庫、つまりは1日目に才加たちが居た倉庫に、集合することを決め遙香たちと別れた。
「火事かな?」恵令奈が眉根を寄せて、首を傾げた。
「火事っていうか、誰かが燃やしたんでしょ?」
至極当然のように才加が言った。その物言いに恵令奈はなにか冷たいものを才加に感じて、拗ねるように口を尖らせてから、「ふうん」とだけ言って、頬を膨らませた。
「なんで燃やすの?」
今度は真奈美が首を傾げた。熱のほうは、大分下がったようで、今はおぶらなくても歩けるようになっていた。
「なんでって・・・そりゃあ―――」殺すためでしょ。そう言い掛けてから、才加は口を閉ざした。
「そりゃあ? なに?」
「なんでもないよ」
「ぶー」
誤魔化すように、歩みを進めた才加に、今度は真奈美が頬を膨らませる番だった。
才加が軽くため息を付く。
地図を広げて位置を確認しようとしたとき、ピンポンパンポ~ンと放送の音が響いた。
『みなさん、こんにちわ~』
才加の表情が険しくなってから、後ろの二人に「しっ」と人差し指を口元で立てて、合図を送った。
何も喋っていないのに、何故か怒られた気がした恵令奈と真奈美が、顔を見合わせてまた頬を膨らませた。
『今回は、沢山死んだぞ~』
戸賀崎が嬉しそうに声を上げた。
『それじゃ、死んだ者を発表する。まずは、増田有華』
恵令奈の膨らんだ頬が、ぷしゅ、と音を立ててしぼんだ。
「有華ちゃん・・・」
「しっ、黙って」
才加が遮るように、右手を恵令奈の前に差し出した。
『それから、小嶋陽菜、早乙女美樹、田名部生来』
テンポよく戸賀崎が続ける。それに対し、才加が軽く舌打ちをした。
『それからそれから~、柏木由紀に渡辺麻友と河西智美。以上7名で~す』
「とも~みとまゆゆって・・・」才加が険しい表情で呟いた。
『これで残り10名になりました~。タイムリミットも残すところ、24時間で~す。いいかぁ? 生存者は1名だけだぞ。2名以上残った場合は全員死ぬからな。気をつけろよ』
そう言うと、次は禁止エリアの説明を始めた。
『それじゃ言うぞ~、まず13時からはA-3。次、15時からはI-5、I-5だぞ? そして17時から、D-10だ。判ったか? もう言わないからな』
才加が地図に書き記し、それを恵令奈と真奈美が、自分の地図に書き写した。
『それじゃ、次の放送まで頑張って殺してくださ~い』
じゃあな~、と言ったあと、ブツッとスピーカーの切れる音がしてから、放送は終わった。
峯岸が託したバトンを受け取ったものの、その想いを果たせることなく、麻友と智美を死なせてしまったことに、才加は目の前が暗くなった気がした。
その才加の目の端に、光るものを見た気がして、恵令奈は素早く目を逸らした。
「優子の名前は無かったよね。さあ、行こう。もたもたしてる場合じゃないよ」
無理やり作ったような笑顔で言ってから、才加はバッグを肩に掛けなおした。
「まぁちゃん、いこ」恵令奈が真奈美の手を取って、笑顔を向けた。それに応えるように頷いたあと、真奈美が恵令奈の手を取った。
紙に書いてある首輪の解除方法と、注意事項。それらを真剣な眼差しで目を通したあと、愛佳が自説を説いた。
それを黙って聞いた優子が、紙切れから目を離して、地面に視線を落としたとき、戸賀崎の放送が始まった。
平嶋と愛佳が地図を広げている間、険しい表情で黙っていた優子が、麻友と智美の名前を聞いたとき、明らかに愕然とした表情をした。
放送が終わったあとも、口を開かない優子に、2人は黙っていた。
「二人はさ―――」ぽつりと呟いた優子が、顔を上げて二人を見やった。「まゆゆと一緒にいたんだよね?」
平嶋と愛佳が顔を見合わせると、寂しそうに頷いて見せた。
「私も少しだけ、一緒にいたんだ」佐江と出会うまでは。そう言ってから、再び地面に視線を落とした。
目に涙を溜めている平嶋が、今にも震えそうな声で優子に向かって言った。
「学校の側にいると、誰かに見つかって殺されちゃうかもって。私が離れたほうがいいんじゃないかな?って提案して、そしたら、近くで銃声がして、怖くなって走って逃げてたんです」
後半はほとんど嗚咽で聞こえなかった。ただ、それが原因で麻友と逸れたんだろうと、優子は解釈した。
「佐江と花ちゃん―――この二人は要注意人物だよ」
そう言う優子の目は真剣そのものだった。
「多分、この二人のどっちかに、まゆゆもとも~みも殺されたんだと思う」噛んだ下唇が薄く紫色に染まっていた。
「でも――」顔を上げた優子が少しだけ笑んでから、続けた。「あの二人だって、こんなことしたくてしてるんじゃないんだよね―――」その笑顔は、酷く寂しそうに見えた。
優子の頭を愛佳がよしよしと撫でた。もちろんハンマーでではなく、手のひらでだ。
ふふっ、と笑ったあと、「ありがと」とだけ呟いた。
「らぶたんのさ」頭を撫でてくれていた愛佳を見上げながら、優子が紙切れを前に差し出した。「らぶたんの言うことも一理あるよね」
優子がそう言うと、突然名前を呼ばれた愛佳が、なんのことか意味がわからず、首を傾げた。また少しだけ笑んでから、それを無視して優子が続けた。
「でも、これ以外に助かる手段がないんなら、これに縋ろうよ」
紙を掲げた優子が、もう一度解除方法を眺めていた。
「でも、それが正しかったとしても・・・一人しか・・・」
落胆する平嶋に、優子が笑顔を見せた。
「みんなで同時に解除すればいいじゃん。死ぬのも生きるのも、みんな一緒。ね?」
優子が首輪を指し示し、平嶋の顔を覗きこんでから、またニコっと笑った。
ハンマーを、ピコっと鳴らした愛佳が、わざとらしく「おーっ」と感心して見せた。
そのリアクションが面白かったのかどうか判らないが、平嶋がため息をつくように笑んでから、優子と顔を見合わせて、もう一度笑った。