仲川遥香は、目を覚ました。
その目に、木々の緑と青い空が見えた。
遥香が体を起こしかけた。途端、体に激痛が走り、起こしかけた体を元に戻した。
「はるごん、だめだよ無理しないで。怪我してるんだから」
遥香は首だけを動かして、それに応えた。
「これ、前田さんがしてくれたんですか?」そう言ってから、「ありがとうございます」と言った。
敦子が笑顔で首を横に何度か振った。
「ううん、別に大したことしてないよ。―――それより、私のほうこそ、ありがとう」
「え・・・?」遥香が目をいくらか大きくして、敦子を見た。
「はるごんが居なかったら―――死んでた」
少しだけ俯くと、遥香を見てから、はにかんだ。
その笑顔は、夏の太陽よりも眩しく見えて、遥香は目を逸らした。
「ねえ、お腹空いてない? こんなものしかないけど、食べて」敦子が支給されたパンと缶詰を差し出した。
遥香がゆっくりと体を起こすのを、敦子が手伝った。さて、食べようと思ったときに、左手が動かないのに気づいた。
「大丈夫? あ~んしてやろうか? あ~ん」冗談には聞こえない敦子の申し出を、顔を赤くして丁重にお断りし、右手で、パンを齧った。
遠慮しなくてもいいのにぃ。と敦子が不満顔をしてから、遥香の隣へ寄り添うように座った。
「こ、これからどうしますか?」慌てるように遥香が敦子に聞いた。
ん~、と少しだけ唸ってから、「もうちょい南西に行ったとこに診療所があるけど・・・行く?」ちゃんとした治療出来ると思うし。と、言った。
「怪我なら、もう大丈夫ですけど――――行きましょう」気を遣わせないために言ったつもりつもりだったが、敦子の目があまりにも真剣だったため、言うとおりにした。
脇腹から全身に痛みが響き渡るのを感じ、少しだけ顔を歪めて、立ち上がった。
敦子がすぐに、肩に腕を回してくれた。ただ、敦子はすでに荷物を抱ええていたため、遥香はそれをすぐに辞退した。
そして、荷物を一つ受け取ろうと手を伸ばしたが、それに関しては、敦子が頑なに拒んだ。代わりに、敦子がウージーを手渡した。
「はるごんが持ってたほうが、心強いから」と言うことだった。それから、敦子はグロック17Lを見せて、「私はこれで十分」と言った。
遥香は、こういうとき、何て返せばいいのだろうと考えた。考えたものの、何も出てこず、代わりに笑うことにした。
そして、二人はその場を後にし、診療所へと向かった。
診療所の有様を見た才加たちは愕然とした。
建物の半分は、薫の作った手榴弾により壊滅され、地面には明日香と松原の死体が転がっていた。
「ひ、ひどい・・・」才加が目を見開き、呟いた。
「佐江ちゃんだ・・・」
恵令奈がマシンガンの銃弾を拾い上げ、そう呟いた。
真奈美を背中から下ろし、松原の頬に触れた。
「なっつみぃ・・・助けてあげれなくて、ごめんね」そう言うと、手のひらで松原の目を閉じさせた。
「明日香も・・・ごめん」松原同様、目を閉じさせる。
「どうしたんだろ・・・」恵令奈が俯いて呟いた。
才加が顔を上げて、恵令奈を見やった。
「佐江ちゃん、どうかしちゃったのかな?」
悲しそうに呟くと、恵令奈は口を閉ざした。才加はそれに対して何も応えることが出来なかった。
佐江は一体何を考えてるのだろうか。一番の理解者だと思っていた才加ですら、その意図は判らなかった。
もし、佐江を止めることが出来る者が居るとしたら、それは自分だけだろう、とも思った。
半壊した診療所を、詮索するように中に入った。どうやら診察室は無事だったようで、薬の瓶やらが並んでいた。
入院用の病室に入ったとき、壊れたベッドの下敷きになっている理沙を見つけた才加が、柱を拳で殴った。
才加は理沙をベッドの下から引きずりだし、明日香と松原の横に並べるように、寝かせてあげた。
「誰かくる」恵令奈が振り向いて小さな声で叫んだ。
「隠れて」才加がそれだけ言うと、恵令奈が真奈美の手を引き、診療所の中へと入った。
ショットガンを構えて、声のするほうに、顔だけを出した。
茂みの中から、人影が見えた。前田敦子と仲川遥香だった。
「ここだ、ここだ―――え・・・?」診療所を見つけた敦子が絶句する。
「宮澤さんですね・・・」落ち着いた口調で、遥香が言った。
「これ・・・」全身に響く痛みのせいで、少しおかしな歩き方になっている遥香が、明日香たちの死体を見つけた。
「うん、マシンガンだ・・・」敦子が項垂れる。
教会での戦いを思い出す。この爆発の仕方といい、明日香たちの銃弾の痕といい、間違いなく佐江の仕業だろうと確信した。
「あんた達」
急に呼ばれたせいで、敦子と遥香は身構えた。遥香は自然とウージーを構えていた。
「戦う気はないから」そう言いながら、才加が両手を挙げて出てきた。「そっちがその気なら、話は別だけどね」
そう言う才加の顔は、少しも笑っていなかった。
「才加・・・?」敦子が驚いて、目を見開かせた。
「二人?」辺りをキョロキョロと見渡した才加が、視線を敦子に戻し、たずねた。
「うん、二人――――二人になっちゃった」言った後、俯いた。
それだけで、敦子たちになにがあったのか、才加は理解した。
少しだけ考えてから、才加は、「恵令奈、出てきていいよ。敵じゃないみたい」と言った。
診療所の影から、恵令奈と真奈美の姿が現れた。
「この通り、私達も害はないから。それ、いい加減下ろしてくれないかな?」遥香の構えているウージーをチラっと見てから言った。
「あ、すいません」
遥香が慌ててウージーを下ろし、頭を下げた。その頭を才加がポンポンと叩いてから、「頑張ったみたいだね」と言い、優しく微笑んだ。
「さ、何があったか話しを聞く前に、その傷をどうにかしようか?」
そう言うと、才加は遥香の背中を叩いて、診察室に促した。