島唯一の診療所は、大きくはないものの、それなりの設備がそろっていた。
申し訳程度に設置されている、入院用のベッドが2つ。その1つに、成瀬理沙は寝ていた。
この診療所にたどり着く途中、突出された木の枝でふくらはぎに傷を作ったためだった。
「足、痛い?」
倉持明日香が、理沙にコーヒーの入ったカップを差し出した。
カフェインの独特の香りが部屋中に漂い、それだけで理沙の気持ちを落ち着かせてくれた。
「ありがと。大分よくなったみたい」
カップを受け取ると、2、3度息を吹きかけ、口を付けた。
苦かったのか、理沙は一瞬顔をしかめさせてから、口を離した。
「また、すぐ移動しなきゃいけないから、ゆっくり休んでね」
明日香が、申し訳なさそうに理沙に笑顔を見せた。
「うん、大丈夫。すぐにでも出発出来そうだよ」
怪我をしたほうの足を真っ直ぐ突き出して、明日香に見せた。
「明日香ちゃ~ん」
診療所の外から、明日香を呼ぶ声が聞こえた。明日香が、窓から顔を出す。
「これ、運ぶの手伝って」
早野薫と松原夏海の二人が、懸命に鉄くずや空き缶の入った木箱を抱えていた。
「これ、どうするんですか?」
箱の中からボルトを一つ摘み取り、マジマジと眺めた。
「この缶の中央に穴を空けて・・・」
薫がなにやら、工作のような真似事を始めたのを、松原と明日香は何も言わずに眺めていた。
「そして、この紙をシリンダーの代わりに差し込んで・・・と。
ここに導火線を入れて、火薬を詰める・・・」
薫が何を作ろうとしているのか、明日香にも松原にも理解出来た。ただ、それを本当に作れるのかを信じることは出来なかった。
「・・・鉄くずを入れて・・・テープで止めれば・・・出来た!」
薫が嬉しそうに缶を掲げる。明日香と松原は、顔を見合わせていた。
「二人も今みたいに作って。出来るだけたくさん」
薫が二つ目の空き缶に手をつけながら、急かすように言った。
「かおりん、一応聞いとくけど・・・それ、なに?」
二つ目に取り掛かった薫の肩越しから、夏海が顔を覗かせた。
薫の手がピタリと止まる。くるっと首だけを松原の方へ振り向かせると、軽く首を傾げて口を開いた。
「なにって、手榴弾じゃん」
当たり前でしょ、とでも言うように薫が口を尖らせる。
「判ったら早くなっつみぃも作ってよ」
再び薫の手が動き出した。
「やっぱ、そうだったんだ・・・」はは・・、と笑ったあと、松原が薫の横に腰を下ろし、空き缶を手に取った。
明日香は出来上がった手榴弾を、棒で突きながら、疑問に思ったことを口にしようか、するまいか悩んでいた。
早野薫らが手製の手榴弾の製作に没頭してるとき、その数十メートル向こうの茂みの先に宮澤佐江の姿があった。
佐江はスミス&ウエッソンに弾を込めてから、ポケットの中の煙草を取り出した。
1本を口に咥えてからライターで火を点ける。軽く咽たあと、もう一度、今度はゆっくりと煙を吸い込んだ。
木の幹に煙草を押し付けて、マシンガンを構えた。茂みから一歩踏み出す。
薫が立ち上がり、診療所の中へ入った。松原夏海が手榴弾を作っている、倉持明日香が完成した手榴弾を一箇所にまとめていた。
さらに一歩踏み出したとき、明日香が佐江の存在に気づいた。佐江は自然と笑みを浮かべていた。
明日香の目が大きく見開かれたとき、佐江はマシンガンの引き金を引いていた。
ぱぱぱぱぱぱ、とマシンガンの弾が左から右へと扇状に広がる。缶に火薬を詰めていた松原の頭部から、血が噴出した。
その瞬間、明日香が言葉にならない叫び声を上げて、佐江に向かって手榴弾を投げつけた。導火線に火が点いてない手榴弾は、その役目を果たすことなく、無常にも佐江の足元に転がるだけだた。
もう一度、ぱぱぱぱぱぱ、とマシンガンの銃声が響く。背中を向けて逃げようとしていた明日香のわき腹から肩口にかけて斜めに5つ程、銃弾の穴が空いた。
何事かと、薫が窓から顔を出すと、先ほどのライターで手榴弾に火を点ける佐江の姿を見た。
近くには、血を流して横たわる松原と明日香の姿。瞬時に状況を理解した薫は、勢いよく窓を閉めたが、佐江の投げた手榴弾は、もう一つの開いた窓を通って、理沙の寝ている部屋で爆発した。
爆発したときに、中の鉄くずが四方に飛び散り、理沙の身体に突き刺さった。
薫は息を呑む。口の中がカラカラだったが、水を飲む余裕などなく、2つ目の手榴弾が投げ込まれ、再び爆発した。