近くで銃声が鳴り響く。
その音に、篠田麻里子は一瞬身を縮めた。
足元に下ろしたバッグを肩に掛け、その音がするほうへと、身を潜めながら足を進めた。
麻里子が最初に目にしたのは、仲谷明香と野口玲奈の死体だった。
その数メートル先には佐藤夏希の死体があった。
麻里子は息を呑む。そして、そのさらに奥に、三人の人影を見つけて、麻里子は大きく目を見開いた。
そこには、涙目で俯く真奈美と、才加、そしてその才加に抱きしめられている恵令奈の三人だった。
麻里子が驚いたのは、そんなことではなく、才加が手にしたショットガン、いや、それよりも、恵令奈が握り締めているモーゼルM712のを見たからだった。
「えれぴょんが・・・」
恵令奈が手に銃を持ってると言う事は、少なからずとも、それを発砲したと言う事で、もしかしたら、この死んだ三人のうち一人は恵令奈の銃弾により殺されたのかもしれない。そう麻里子は考えた。
もし、殺していなくとも、あの発砲音のひとつは恵令奈の撃った銃弾の音だったかもしれない。
そう考えると、麻里子は身体がブルブルと震え始めた。
戦いは既に始まっている。
気がつくと、麻里子は夏希の死体のすぐ横に立っていた。
最初に気づいたのは、真奈美だった。その後、才加が気づき、ショットガンを構えた。
「麻里子、あんたは殺し合いなんてバカなマネ――」
「この三人殺したの才加たちでしょ?」
麻里子は口の端をゆっくりと持ち上げるように、笑みを作った。
恵令奈の表情が重くなる。
「人殺しだね。三人とも」
そう言うと、麻里子は夏希の傍に転がっていた357マグナムを拾い上げた。
「これって、どう使うんだろ?」
麻里子が夏希のバッグから弾丸の入った箱を取り出しながら説明書をパラパラと捲った。
「麻里子、何する気?」
才加がショットガンを構えたまま、麻里子にジワジワと近づく。
「才加のほうこそ、そんなもの構えちゃって、私を殺す気なんでしょ?」
「殺す気なんて・・・」
「じゃあ、それ下ろしてよ」
額からこめかみにかけて、汗がツーっと才加の頬を伝った。
死体を目の前にしてるにも関わらず、冷静にしている麻里子の心理状態が才加に恐ろしく怖かった。
麻里子がすっと銃を才加に向けて構える。
「辞めて! 麻里子!」
才加が引き金に指を掛けた。
「才加、それ矛盾してるよ。自分の姿鏡で見てみなよ」
ふふっ、と麻里子が笑う。
「私はさ、どっちでも良かったんだ。みんなを捜し出してさ、学校に乗り込んで、あいつら皆殺しにして、この島脱出してもよかったんだよ」
麻里子が銃を構えたまま、才加にゆっくりと近づいた。
「でもね、今この光景を見て、はっきりしたよ。こんな小さな子まで殺し合いをしてるんだって思ったらさ、なんかワクワクしたって言うか、身体の奥のほうから、こうこみ上げてくるものがさ、なんて言うんだろうね、こう言うの」
ふふふ。笑いを堪えるように麻里子が左手で口元を抑えた。
「麻里子・・・」才加は麻里子の影に、佐江の姿を見たような気がした。
やる気のある子たちは、皆こうも豹変するのだろうか? 才加は引き金に掛けた指に少しだけ力を込めた。
「撃つなら確実に殺してよね。そうしないとあの子が死んじゃうよ」
才加に向けていた銃口を、真奈美のほうへと向けた。
真奈美は身をちぢ込ませ、泣きそうな顔をしていた。
そのとき、ピンポンパンポーンという間抜けなチャイムが鳴り響き、麻里子が目を逸らしたのをきっかけに、才加が麻里子を突き飛ばした。
「二人とも逃げて!」才加が二人を連れて、森の木陰へと走った。
「くそっ!」パンッパンッ。
麻里子の放った弾は、二発とも木に当たり、才加たちの背中は消えていった。



放送を知らせる音で、優子は目を覚ました。右手で頭を抑え、身体を起こした。
手のひらに伝わる感触と、口の中の塩味のする砂で、ここが砂浜だということに気づいた。
『みなさん、こんにちわ』
戸賀崎の挨拶が響いた。その声に耳に障ったが、自分の身体の安否を確認することでいっぱいだった。
『それじゃ死んだ者を発表しまーす。まずは佐藤亜美菜。』
自分自身を身体検査するように、手のひらで身体中を触った。どこからも血が流れていないことに幾分ホッとしたが、崖から飛び降りたときに、打ったのだろう、左腕を持ち上げたときに、肩に痛みが走った。
『それから、佐伯美香、仲谷明香、野口玲奈、佐藤夏希』
戸賀崎が死者の名前を読み上げる。
バッグに手を伸ばしかけたときに、智美の存在を思い出した。
「ともみ!」優子から数メートルほど離れた場所に横たわっている智美を見つけた。
『みんなペースが遅いぞぉ。遠慮しないでどんどん殺しちゃっていいんだぞ』
戸賀崎が明るい口調で言った。
「とも、とも、起きて!」優子が智美の身体を揺さぶる。
「ん・・・んん・・・」
目を覚ました智美が、優子の顔をマジマジと見つめたあと、ニコっと笑いかけた。
「コリン、生きてたんだ。よかった」
『それじゃぁ、禁止エリアを発表するぞー。メモの用意いいかぁ?』
感傷に浸る余裕もなく、戸賀崎が禁止エリアの説明を始めた。
優子はバッグの中から地図を引っ張り出し、メモの準備を始めた。
『まずは、13時からE-3』
E-3は島の西側の診療所の近くだ。
『続いて、15時からB-8。B-8だぞいいかぁ?』
B-8は優子と智美が出会った、あの崖だった。そして、佐江と戦った場所でもある。
『そして、17時からは、H-6だ。ちゃんとメモしとけよ』
H-6は島の南側、倉庫の北側にあたる場所だった。
優子は地図に赤いペンでその場所に、時間を書き綴った。
『じゃあ、次の放送は夕方の18時にしまーす。判ったかぁ? 次の放送でたくさんの名前を呼ばせてくれることを、祈ってるからな。じゃあなー』
プツッとスピーカー独特の音がした後、戸賀崎の声が消えた。
「なーにが祈ってるよ。殺し合いを望む奴なんて――」
「ねぇ、コリン」
口を尖らせて、ブツブツと文句を言ってる優子に、智美が声をかけた。
「え? なに?」慌てて、優子が智美に向き直る。
「ここ・・・ここ見晴らしよすぎない?」
智美がキョロキョロと辺りを見渡した。
「ん? そういや、そうだね」ぐるっと周りを見渡した優子が、バッグに手を掛け、「ちょっと移動しようか?」と智美に笑いかけた。
「うん」頷いたあと、智美も、自分のバッグに手を掛けた。
「――っつ」智美が苦痛の表情を浮かべる。
「大丈夫?」
優子が智美の身体を支えつつ、智美が押さえてる腹部を確認した。
「そういや、撃たれたんだっけ? 治療しないとね」
バッグの中に入ってる海水で濡れた包帯を取り出し、優子が智美の服の裾を捲った。
シャツの下から表れたのは、銃弾で穴の開いた肌ではなく、ごわごわとしたグレーの防弾チョッキだった。
「これ・・・?」
優子が目を丸くする。
「これがともの武器だよ」えへへ、と智美が笑った。
どうりで血が流れていないと思った。優子は智美の頭をたたくふりをして、「なぁんだ」と言って笑った。