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 弁護士の遠藤直哉さんとは以前から親しくしている。日本にロースクールを導入させた立役者でもある先生は、「ソフトロー」によって日本の法改革を図ろうと力を注いでいる。我が社でも一冊本を出している。今度は、法改革のために日本に「ソフトロー・デモクラシー」の社会を実現しようという壮大な構想を英語訳付きで単行本にすることになり、この一週間は、その編集作業が山場になった。特に英文原稿が難儀した。あと一息で入稿になる。
 壮大といえば、もう一つの大仕事は「源氏物語」である。フランスで最近、壮大なスケールの「源氏物語」3巻本が出版された。なにが壮大かというと、世界の名だたる美術館が所蔵する源氏絵のほとんど(約500点)を集め、「源氏」54帖すべてを原文付きの豪華絵巻に仕立てた発想の大きさである。フランス語訳は、有名な日本文学者、ルネ・シフェールさんである。シフェールさんは、「万葉集」の全4500首も仏訳した恐ろしいフランス人学者だ(笑)。
 その3巻本の総ページ数は1400ページに上り、なんと総重力が10キロにもなるとてつもない豪華美術本である。この本の日本語版を出せないかと持ちかけてきたのは、平凡社出身の編集者の吉岡さんだ。出すのに1億円近いお金がかかる。資金を助けてくれるスポンサーを探さなければならない。
 吉岡さんの会社を発行元にし、我が社が発売元になって何とか刊行したいと動き出したのは、一カ月ほど前のこと。大変な大仕事である。なにしろ、この出版大不況のご時世で、大手出版社は全くこの企画に見向きもしない。それと、一時期日本でも盛んになった「フィランソロフィ」というのはほんとに影をひそめてしまった。企業が文化事業にお金を出し、企業イメージをたかめるという理想は、バブルの時代にほんのいっとき咲いたあだ花だったのだ。こういう事業にお金を投じようという企業もすっかり少なくなってしまった。資金集めは難航している。
 それにしても感服するのは、「源氏物語」というよその国の文化的財産を高く評価してこういう本の出版を実現し、その出版を見事にビジネスとしても成功させたフランスの文化大国ぶりである。3巻本3500セットは完売し、大きな売り上げも作りだしたという。
 それに引き変え、日本の文化後進国ぶりは最近ますます顕著になってきた。こういう出版をおひざ元の日本では誰も発想し得なかっただろう。源氏物語は万葉集と並ぶ日本の最大の文化遺産だ。万葉集は7世紀~8世紀に生まれ、源氏物語は、紫式部が10世紀の末に書いたといわれる。その時代に、世界のどの国にこれだけの言語芸術があっただろうか? 歴代の天皇が編集を命じてできた勅撰和歌集は、平安期からなんと21歌集にも及んだ。日本は世界に誇るべ言語文化を持つ国なのだ。私が文章の書き方と言葉について教えている「文章講座」で、いつもそのことを強調している。 
 しかし今の日本では、若い人たちはいうまでもなく、いい歳をした人たちの言語表現能力の衰退も、それこそ恐るべき状況にある。なにしろ総理大臣が、字が読めないので笑われたりするあり様である。
 あるときテレビを見ていたら、若いタレントが初めから終わりまで、「やば!」と「マジー?」の2語しか発することがなかった。いやはや、これは「やば!」
いのです。