国谷裕子キャスター NHKのニュースはおかしくないか? 最近、そう感じている人は多いと思う。
TOPニュースが、気象か災害のニュースになることが、ほんとに多くなった。熊本大地震の情報は、4月14日『ニュースウオッチ9』の番組中に入ってきた。そのあと、NHKはすべての番組を飛ばして地震情報を朝まで流し続けた。
災害情報は大事なニュースに違いない。しかし、明らかに過剰である。大地震のおきた夜の9時26分から翌朝まで、日本国内にも世界にも、重要な事件、出来事がおき続けている。果たしてNHKは災害報道だけを流し続けていいものだろうか? 気象や災害のニュースは誰からも文句を言われないですむニュースだ。自民党の先生たちからも、もちろん視聴者からも。しかし、それではあまりに番組作りが安易にすぎないか?
NHKの会長に、安倍政権に近い籾井氏が就任してから、報道や番組制作の現場の「忖度」や「萎縮」が問題になっている。政権や局の上層部からのあからさまな圧力はもちろん問題だが、マスコミの現場が自己規制するようになることも、同じように問題ではないか? 正しい情報が、視聴者・読者に伝えられなくなる恐れがある。
1980年代に放送メディアを担当する記者をしていたことがある。その時代、TBSにもNHKにも骨のあるジャーナリストがたくさんいた。報道番組にジャーナリズムの根性のようなものが感じられた。その時代に比べて、いまのテレビ報道は信じがたいほどの変貌をとげている。
この4月から「クロ現」こと『クローズアップ現代』の国谷裕子キャスターが降板したが、昨年春の『ニュースウオッチ9』大越キャスターの降板に続く、「もの言うキャスター」交代人事に、いまのNHK報道の問題が集約されていると思っている。
国谷裕子さんはインタビュー相手が誰であれ、納得が行くまで「食い下がる」優秀なキャスターである。知性的で文化的教養もある。視聴者からの信頼があり、評判も悪くなかった。その彼女が、なぜ降板させられたのか?
集団的自衛権の問題で菅官房長官に食い下がり、番組後、官房長官の側近たちが激怒して大騒ぎになったことがあった。安倍首相の気に障ったという大越キャスターの降板とまったく同じ構造だと思う。そのことを新聞がほとんど書かないことも問題だろう。長く朝日のメディア担当記者をしている旧知の川本祐司さんだけが、NHKの中で何があったかを匂わせる記事を書いた。
現場のプロデューサーたちは彼女の続投を主張したが、上層部の意向で降板が決定したという。首相官邸とNHKの政治記者出身の幹部たちの間に、太いパイプがあることは知られている。圧力を掛けるまでもなく、政権の意向が番組にも反映される構造が出来上がっているのだと思う。
こういうテレビ報道の問題について発言するジャーナリストもめっきり減ってきた。鳥越俊太郎さんたちが声を上げても、彼らはもはやそのことをテレビや大新聞で発言できなくなっているのだ。
折りしも、国連の「表現の自由に関する特別報告者」として来日したデヴィッド・ケイ氏が日本での調査を終えて、安倍政権による報道圧力を批判した。またそのタイミングで、「国境なき記者団」が世界の「報道の自由度」ランキングを発表したら、日本はなんと、問題の香港や韓国より低い、「72位」と発表された。国内よりむしろ外国で日本のジャーナリズムの後退が心配されている。
フランスに限らず、ヨーロッパの近代市民社会は「表現の自由」を文字通り血を流して獲得してきた歴史がある。日本はそのような歴史を持たない。だからこの国で「表現の自由」は危ういのだ。高市総務大臣の「電波停止」発言を、絶対に看過してはいけない。